有事の場合、与那国島の住民を守り切れるか

「こんな状態で、果たして島を守り切れるのだろうか。電子戦の専門部隊を増派するといっても車両2台分くらいの増員ですよ。岸田政権には、もっと増やしてほしいと言いたいくらいです」

与那国町長、糸数健一さんは、このように不安を口にする。

「住民避難の問題だってあります。一夜に自衛隊員以外の島民、1400人あまりの疎開はできません。陸続きで疎開ができない島にあっては船に頼るしかないですが、フェリーだと石垣島に避難させるのに片道4時間かかります。乗れるのは1回120人程度。到底間に合わないですよ。飛行機でも1便50人しか運べません。飛行場拡大の用地はあるので整備してほしいし、物資を運び入れる港湾整備も必要です」

与那国町の糸数健一町長
筆者撮影
与那国町の糸数健一町長

与那国島では、住民避難について、島内避難に関しては防災訓練として実施してきたが、島外避難に関しては一度も行っていない。

前述した沖縄漁協組合長、嵩西茂則さんは、このように語る。

「島内にシェルターを作ってほしいですね。ウクライナを見ても、無事避難した市民の多くは地下ごうに入れた人たちですよね」

地下シェルターや兵器集積など課題は山積

台湾有事や尖閣諸島有事は、この3カ月、ロシアのウクライナ侵攻と比較して語られるようになったが、根本的な違いが存在する。

ウクライナは陸路で避難が可能で、アメリカやNATO加盟国による軍事物資の補給も陸路で可能だが、海に囲まれた沖縄本島や八重山諸島の島々ではこれができないという点だ。中国軍が制空権を掌握し、海を抑えてしまえば、完全に避難路は絶たれてしまうからである。

戦争では「民間人を巻き添えにしない」ことにはなっているものの、陸路で避難が可能なウクライナでも、容赦なく攻撃を加えるロシア軍との間で、人道回廊など避難ルートの確立に時間を要した。

有事が生じた場合、与那国島のような島々では、現実問題として、まず島内に隠れることから始まるのではないだろうか。

だとすれば、島内、島外の両面で避難訓練を行うことは重要課題で、それと同時に、島内に地下シェルターを作るという備えも不可欠になるだろう。

さらに言えば、兵站へいたん(兵器類の整備修理、食料、燃料、弾薬などの補給、戦闘傷病者の医療処置など、前線の戦力を維持するための機能)の問題もある。

前述した元陸上自衛隊陸将の渡部悦和さんは、

「離島防衛の課題は何と言っても兵站。島に駐屯地を作っても、有事が生じる前に武器弾薬を集積しておかないと間に合わない。そのための予算が担保されるのかどうか」

と指摘する。