台湾有事の最前線・与那国島で着々と進む備え
有事の際、最前線となる与那国島。島では2016年3月、陸上自衛隊の駐屯地が設けられ、160人規模の沿岸監視隊が駐留して以降、着々と戦時への備えが進んでいる。
かつては「拳銃2丁」と呼ばれ、島内2カ所にある警察の交番だけが防衛の拠点と揶揄された与那国島。「防衛の空白地帯」であったはずの島には、中心部の小高い山に巨大レーダーが設置され、周辺を航行する中国軍の艦艇や航空機の監視を続けている。
筆者が施設の近くで写真を撮ろうとスマートフォンを構えると、警戒にあたっている隊員から「ここは立ち入りできません。早く出て」と厳しい声が飛んできた。
このほか、2022年4月1日には、航空自衛隊の移動式レーダー部隊も配備された。文字どおり、移動式の警戒管制レーダーを運用することによって、中国軍への警戒監視態勢を強化するためだ。
そして、来年度には、陸上自衛隊の電子戦専門部隊の配備も予定されている。この電子戦専門部隊には、最新の車載型ネットワーク電子戦システム(NEWS)が導入され、電磁波の収集、そして侵攻を受けた際に、相手のレーダーや通信機器を無力化するための役割が与えられることになる。
その数は70人規模。これにより与那国島に駐留する自衛隊員の数は230人あまりと、島の人口の約15%を占めることになる。
自衛隊への「反感」が「歓迎」に変わったワケ
沖縄大学地域研究所の島田勝也さんは語る。
「自衛隊は本土復帰に合わせて沖縄に入ってきたんです。当時、県民感情としては反感が強く、基本的には『拒否』。ところが、21世紀になって中国の船や航空機が頻繁に周辺海域や空域に接近するようになって意識が変わってきたんです。特に、ロシアのウクライナ侵攻以降、3カ月の間に、与那国島も石垣島も、宮古島や北大東島も、『明日はわが身』という気持ちから、住民の間でほとんど抵抗はないと思いますね」
アメリカ軍基地の大半が沖縄に偏在していることへの抵抗はあっても、進む自衛隊の配備については、むしろ「歓迎」の気持ちすらあると言う。
与那国島だけでなく、2019年には宮古島に駐屯地が置かれた。石垣島にも今年度中には陸上自衛隊の警備隊、地対艦ミサイル、地対空ミサイル部隊が配備される予定で、現在、島のほぼ中央にある山の中腹では、工事を進める大型クレーン車を遠目からでも確認することができる。
「ようやくここまで来たことは感無量。対中国という意味では八重山の島々は国土防衛の壁になる。これまで数々の選挙を乗り越え、政治的なハードルを乗り越えて整備が進んできたことは実に感慨深い」
これは、陸上自衛隊元陸将、渡部悦和さんが筆者に語った率直な感想である。