自民党は「現行憲法の自主的改正」を党是としており、岸田文雄首相は自民党の改憲案の早期実現を目指すと発言している。その前提には、日本国憲法はGHQに押しつけられたもので、日本人が自主的に制定した憲法ではないという考えがある。弁護士の堀新さんは「憲法のたたき台については、GHQによって『押しつけ』られた要素はある。ただ、それには相応の理由があることも踏まえるべきだろう」という――。
憲法議論で多くの人が勘違いしていること
今年は日本国憲法が1947年に施行されてから75周年にあたります。さらにコロナ問題やウクライナ戦争などもあって、憲法のあり方についての議論が例年よりも盛んにおこなわれるようになっています。
ただ、憲法についての議論の中には、かなり乱暴で大ざっぱな印象論も混ざっていることは否定できません。
例えば「日本国憲法は国民の意向に関係ないGHQの『押しつけ』だった」とか「わずか1週間でアメリカ人たちが作った」とか、さらには「外国から押しつけられた憲法ではなく、日本国民の意思で自主憲法を制定しよう」などという声がよく聞かれます。
果たして日本国憲法は「押しつけ」だったのでしょうか。また、日本国民の意思が何も反映されずに制定されたのでしょうか。実際の経緯を確認してみましょう。
「GHQ案=日本国憲法」ではない
まず結論から言ってしまうと、日本国憲法は、敗戦後の占領された日本で、GHQの作成した案をたたき台として、そこに日本側が修正や追加を行ったうえで制定されました。
このことからすれば、少なくとも最初の案については、多かれ少なかれGHQによって「押しつけ」られた要素があること自体は否定できないでしょう。
ただし実際の展開としては、GHQが作成して日本政府に与えた条文をそのまま日本語に翻訳して日本国憲法にしたというわけではないし、民意が反映されなかったというわけでもありません。
GHQの案に日本政府がある程度手を加え、さらに、1946年4月の日本初の男女平等選挙で選ばれた衆議院議員と(選挙の対象でない)貴族院議員が審議して、(GHQの意向に反しない限りにおいて、ですが)さまざまな修正を加えたうえで、現在の日本国憲法が完成したのです。