コロナ禍で攻撃的な人が増えている

新型コロナウイルスの世界的感染拡大もまた、私たちの自律神経に多大な影響を与えています。

外出や行動が制限され、仕事のやり方も変えざるをえない。人と交流する場が失われ、ストレス発散の場も減ってしまった……。誰もが何らかの我慢をいられながら、次々に変化する状況に対応してきました。

こんな劇的な状況が数年続いているのですから、ちょっとした変化にも敏感な自律神経が乱されないはずがありません。

コロナ禍のように長期的な不安や恐怖にさらされると、交感神経だけが高まった状態が続くため、血圧が上がって興奮状態に陥りやすくなります。外部の刺激に対する反応が過敏になりますから、他人への攻撃性や猜疑心さいぎしんも高まります。

自分とはまったく無関係なタレントの浮気が発覚したというゴシップニュースを追いかけては、「絶対に許されるべきではない」と息巻いている。

そんな人々がネット上の世界には溢れ返っています。そうした状態にある人々の数が増えると、社会にも殺伐さつばつとした空気や閉塞感がただよいます。

実際に、外来診療には不安や息苦しさ、うつ症状、パニック症状などを訴える患者さんが残念なことに増え続けています。

壁の後ろから片目で見る猫
写真=iStock.com/101cats
※写真はイメージです

若さと勢いで駆け抜けられるのは、人生のごくわずかな時期だけ

自律神経のバランスが乱れる要因はさまざまです。

ストレス、暴飲暴食、生活リズムの乱れ、運動や睡眠の不足、喫煙習慣、気候の急激な変化などが挙げられますが、忘れてはならないのが「加齢」です。

男性は30代、女性は40代に入った頃から、徐々に自律神経のバランスが乱れやすくなることがわかっています。

じつは、交感神経のはたらきは年齢を重ねてもあまり変わらないのですが、副交感神経のはたらきは年齢とともに低下していきます。そのため、交感神経だけが強くはたらいてしまうアンバランスな状態になりやすいのです。

私たち順天堂大学の研究チームが行なった「男女年代別の自律神経測定データ調査」の結果を見ても、男女ともに30代、40代と年齢が上がるにつれて、副交感神経の活動レベルが急降下していきます。

体力のおとろえや心身の不調を感じ始める中高年期は、副交感神経のはたらきがどんどん低くなっていく時期ともぴたりと一致します。

高齢者が怒りっぽくなってしまうのも、年齢を重ねていくほどに副交感神経のはたらきが低下し、感情のコントロールが難しくなってしまうからです。

エネルギーに溢れた10代、20代であれば、多少の睡眠不足やダメージはすぐに回復できるでしょう。

しかし、若さと勢いで駆け抜けられることができるのは、人生のごくわずかな時期だけです。そこから先の長い数十年間は、私たちは自分で意識して心身のコンディションを整えていかなければなりません。