躊躇ちゅうちょなく転職する若手・中堅を横目に、そんな40代、50代が組織の上のほうに多く取り残されたままだ。新たなお金とプライドの拠り所を見出せずにいる彼らの琴線に、先のツイートは触れたのだと思われる。

メディア系企業勤務の傍ら、大規模な異業種交流会を主宰し、著書も複数上梓している千葉智之さん(49歳)も、このツイートに敏感に反応した1人だ。

「アラフィフの私にとってもド真ん中の話です。確かに、40代後半にもなれば『オレもこの辺までかな……』という具合に、先は見えますよね」

千葉さんは、会社と昇進・報酬とを切り離して捉えることを提案する。

「退職後を視野に入れて、在職中にスキルや人脈といった、後でマネタイズに繋がる自分の資産を蓄積しておくべきです。そう考えれば、会社は宝の山。今やるべきことはたくさんあります。辞めたら、そこに二度とアクセスできませんから」(千葉さん)

今、いる場で自分の強みを見出せば、羅針盤と地図は手に入る。今やるべきこともおのずと決まる、というわけだ。

「ただ、そもそも“何者かになれた”と思ってる人なんて、ほとんどいませんよ。知り合いで、大手ITの開発責任者をやっているバリバリのエリートですら、『何者かになれたなんて思ってない』と言っていたくらい。日本のサラリーマンは総じて“何者にもなれなかった症候群”じゃないですか」(同)

「昼スナ」の先駆けとしても知られる「ひきだし」。週1、月1でカウンターに立つママ・マスターが、見知らぬ人同士を繋げてくれるだけでなく、一緒になった客同士が気軽に会話を交わし、職場では出会えない人たちとの交流を広げる場となっている。
撮影=萩原美寛
「昼スナ」の先駆けとしても知られる「ひきだし」。週1、月1でカウンターに立つママ・マスターが、見知らぬ人同士を繋げてくれるだけでなく、一緒になった客同士が気軽に会話を交わし、職場では出会えない人たちとの交流を広げる場となっている。

「正直、あの世代にカネは出したくない」

そんな悶々とした思いを抱えた中高年たちの集う場がある。

「『何者』って何ですか(笑)? そんなのメディアがつくった幻想だと思っていますよ」――東京・赤坂見附のスナック「ひきだし」の紫乃ママ(54歳)は、件のツイートを一笑に付した。

「若い人もそうですけど、一見何者かになっていそうなキラキラした人を、ネット上で目にしやすくなっています。テレビや新聞の中のような別世界ではないから、上ればたどり着く階段があるように見えてしまう。『そこを目指さなきゃいけないのか』と、周囲の同調圧力も含めた強迫観念が生まれ、自分がそこに到達していないことでムダに落ち込むという構図が生まれたんでしょう」(紫乃ママ、以下同)

紫乃ママ――木下紫乃さんの本業は中高年のキャリア支援を行う会社のCEO。その傍ら週1回、昼に「ひきだし」に顔を出し、それに合わせて店を訪れるビジネスパーソンの悩みを聞いたり、相談に乗っている。

「私たちの世代が社会に出た頃は、定年まで勤め上げる単線型のキャリアが普通でした。リーマン・ショックだ何だでその価値観がガシャガシャになり、世の中の大きな変化にキャッチアップする暇もないうちに、気が付くと閑職に追いやられていた、という感じ」