同じ「キリスト教系の神」同志のウクライナ戦争

今回のウクライナ戦争はどうだろう。

ロシアの主たる宗教はロシア正教だ。プーチン大統領自身もロシア正教に帰依している。正教は、キリスト教の一派であり、その名のとおり「正しい教え」を意味する。正教会はそれぞれの国の名を冠し、「ロシア正教会」「ウクライナ正教会」「日本正教会」などと呼んでいる。

一方、ウクライナの宗教構造は複雑だ。大きく分けるとウクライナ正教およびカトリック教の勢力が強い。ウクライナにおける正教会は、ロシア正教会からの独立を目指してきた歴史があり、現在は3つに分裂している。

ウクライナ大使館によれば、ひとつはプーチン政権に近いロシア正教会モスクワ聖庁の権威を認めるウクライナ正教会。2つ目は、そこから独立し、ウクライナ政府を後ろ盾とするウクライナ正教会。さらに、ウクライナ独自のウクライナ自治独立正教会がある。

ウクライナのキーウ(キエフ)に立つウクライナ正教会聖ミハイル修道院
筆者撮影
ウクライナのキーウ(キエフ)に立つウクライナ正教会聖ミハイル修道院

今回のウクライナ戦争によって、ウクライナ国内ではロシア正教会モスクワ聖庁系の司祭が追い出されている。

しかし広い視座でみれば、両国は同じキリスト教系の正教会の国であり、また、ウクライナを軍事面で支える欧米諸国もまたキリスト教国である。ウクライナ戦争は同じ「神」のもとでの戦争なのだ。

ロシア正教会のトップ、キリル総主教はウクライナ侵攻が始まってから、この戦争を支持し、正当化する発言を繰り返している。ワシントン・ポストによればキリル総主教は、モスクワ大聖堂での礼拝で戦勝祈願を実施した。ロシア国家親衛隊の将軍に聖火を手渡し、祈りを捧げた。

また、ロシア正教はウクライナに侵攻する戦車や兵士らに聖水を浴びせるなど、聖戦を強調する動きが目立っている。ロシア正教会では、シリアにおける空爆の際にもロシアのミサイルに聖水をまくなど、戦争への協力姿勢を明確にしている。

こうしたロシア正教の戦争賛美の立場に、東方正教会(ロシア・中東・東欧を中心とする15の自立教会の連合体)は反発を強めている。仏教者である私からみても、ロシア正教の動きには強い違和感がある。