「僕の年収で私立に入れられないわけがない」
……と、ここまでは10年前からすべて予想できていたことでした。「中学から大学まで私立」「妻は専業主婦」「年収800万円」「月16万5000円のローン」という情報を機械的に淡々と数式に入れ込んでみると、当時から赤字になることがデータでも示されていたのです。ある意味、山形さんは私が作ったキャッシュフロー表通りの道をたどっていました。ではなぜ彼は、赤字になる未来予測をそのまま突き進んでしまったのでしょう。
10年前、崩壊しているキャッシュフロー表を見た山形さんは突然不機嫌になり、こう言い放ちました。
「僕の年収で私立に入れられないって、そんなわけないでしょう」
高給取り&エリート意識の強い彼は、自分のような「上層の人間」が子供を私立に入れられないなら、一体この国の誰が私立に行けるのかと、早口でまくしたてました。隣にいた妻はキャッシュフロー表を見て不安を感じたようですが、専業主婦ゆえか権限がないようで、すべての決定権は夫の山形さんが握っている状態。結局、誰も彼を止めることはできず銀行の審査も通ってしまい、マンション購入となったのでした。
「今は払える」だけでローンを組んではいけない
少し話はそれますが先日、世帯年収1200万円のパワーカップルから「代官山の家を買いたい」というご相談を受けました。試算すると返済金額は月20万円以上。2人合わせて手取りが6、70万円あるご家庭なので、たしかに買えます。とはいえ、山形さんと同じようにお子さんが大きくなれば教育費がかかってきますし、経済状況があまりに不安定な今、私はかなり手堅いご提案をするようにしています。
しかもこの代官山の物件、ヴィンテージマンションで本当におしゃれではあるのですが、“ヴィンテージ”だけあってエレベーターもなく、修繕積立金は5万円……! すぐ引き上げられる賃貸はアリでも、買ってしまうと簡単には手放せません。結局この物件、他の方が一足早く買ってしまったそうなので、私としては一安心でした。
今は低金利なので、変動金利でローンを組み、住宅ローン減税があるうちに購入したい、という方も多いです。代官山の方もまさにそうでしたし、山形さんも0.5%の変動金利でローンを組んでいます(購入当時の金利は0.8%、借り換えで0.5%に)。都内には1億円を超えるマンションがバンバン建っていて、完売しているものもよく見かけます。たとえ1億の物件だとしても、この先の収入状況の安定が確保され、いざといった時に対処できるくらい資産が潤沢にあれば購入するのもありかもしれません。
不確定要素が多すぎる今の時代、心配しだすときりがありませんが、収入減少の想定もしてシミュレーションをし、貯金で当面の目処が立つかも見極めながら物件購入を考えてほしいと思います。