非常に閉じた世界で成り立ってきた業界だが…
また、ファッションは、特にラグジュアリー市場は、非常に閉じた世界で成り立ってきたビジネスでもある。トレンド情報を知っているのは、バイヤーやジャーナリストなど業界の中でも限られた人だけだ。その情報がピラミッドの上から下に広がっていくヒエラルキーが、業界を支えてきたと言っても過言ではない。
ただ、世の中全体のムードは、多様性を土台としたオープンでフラットな方向に向かっている。ファッション業界固有のヒエラルキーの意味が問われてもいるのだ。
コレクションショーもしかりだ。コロナ禍で、リアルなコレクションショーができなくなってデジタル配信に切り替え、限られたジャーナリストやバイヤーだけでなく、広く一般に公開するブランドは、「ルイ・ヴィトン」から「グッチ」、「メゾン マルジェラ」まで数多い。
それも、単にランウェイを歩く様子を動画配信するのではなく、映画仕立てにしてストーリーを展開したり、作るプロセスや意図をデジタルで表現したり、実験的な試みが盛り込まれている。このまま、コレクションもオープンでフラットになっていくのではと思っていた。
デジタル技術が服の楽しみ方を変えていく
しかし、村上さんに聞くと、「コロナウイルスの感染状況の改善に伴い、多くのブランドがリアルなショーを復活させている」という。予想したほどSNSでバズらず、従来のやり方の方が効果的との判断が働いているようだ。デジタルによってファッション業界は門戸を開くことができるはずだが、今はまだ、その扉を開き切るまでには至っていない。
だからと言って、ファッションとデジタルが無縁なわけではない。村上さんは「拡張現実(AR)といったテクノロジーを駆使することで、服の楽しみ方が変化し、創造的な世界が拓けていくのは確か。ファッションは新しいものをいち早く取り入れるのが得意なので、さまざまな可能性を秘めている」とエールを送る。
こうして試行錯誤を繰り返す業界で、ファッション・ジャーナリズムも変わる必要があるのだろうか。
村上さんは「単に『トレンドは○○』と“正解発表”するジャーナリストの役割は減っていくし、少なくとも生活者の“正解”に対する興味は薄くなっています」と激流の変化を感じ取っている。