高級ブランドも抱えていた大量処分の問題
村上さんは、「業界全体で、流行を生み出すべく過剰になってしまったところを、そもそもの意義に立ち返り見直す動きが芽生えています」という。
ブランドによっては、オートクチュール(高級注文服)、プレタポルテ(高級既製服)、プレコレクション(メインのコレクションの前の小規模なプレタポルテコレクション)など、いわゆるコレクションショーを年7、8回行っているところもあるという。かつてファストファッションブランドと呼ばれていた「ZARA」や「H&M」は、週間単位で商品を入れ替えていた。
グローバル市場を視野に入れた成長拡大を追求する過程で、より速く、より大量にという動きが過剰になっていたのは事実だ。一方でそれは、大量の売れ残りを出すことを意味してもいた。2018年には、「バーバリー」が売れ残りを焼却したことが報じられて物議を醸した。
新型コロナの流行で外出する機会が減り、業績が停滞しているアパレル企業は少なくない。「コロナ禍はひとつのきっかけ。以前から存在していた課題が顕在化し、変革に拍車がかかったのではないでしょうか」(村上さん)。サステナブルという観点からも、サイクルのありようを見直す、コレクションの役割を見つめ直すといった動きが始まっている。
サイクルの多様化は消費者にもメリットがある
ファッション業界の先行きについて、村上さんは「さまざまなサイクルのブランドが共存するようになるのではないか」と予想する。
あるブランドは短いサイクルで回していく、あるブランドは定番商品を長いサイクルで売っていく、というふうに、業界一律ではなく多様になっていく。これは消費者にとっても、選択肢が広がるのだからメリットがある。
一方、「周りがやっているから」と横並びを続けるところと、そうでないところは、道が分かれていく。
筆者はあるアパレル企業の役員と話していて、「コロナ禍を良い転機ととらえ、サイクルのあり方を見直そうとしたのだが、予想以上に費用も手間もかかって手こずっている」と耳にした。それなりの規模で半年サイクルを回してきたブランドにとって、ハードルは決して低くない。
他方で「小さいながらも半年という枠組みにとらわれず、SNSを駆使して新作を発表して受注を取り、必要数量だけ生産するブランドもがんばっています」と村上さん。半年ワンサイクルという枠組みにとらわれず、その企業やブランドが、どういった意思を持ち、どういうサイクルを選ぶのか。それぞれのサイクルの意味が問われていくというのだ。