プーチンのイライラは頂点に達した

ゼレンスキーの支持率は、就任時には約8割と高かった。過去の大統領や首相は私腹を肥やす悪い連中がほとんどだったから、過度な期待があったのだ。しかし、実際に就任すると「やはり政治の素人じゃダメだ」と、支持率は約3割まで落ちた。

人気を失ったゼレンスキーは、EU加盟、NATO加盟を掲げた。EU加盟を望む国民は多いから支持率は上がる。

※編集部註:初出時、「憲法にまで明記」とありましたが、事実誤認でした。訂正します。(4月15日13時15分追記)

ウクライナ人の多くがEU加盟を望むのは、EU内を自由に往来し就業もできる「EUのパスポート」が欲しいからだ。現在のロシア軍と戦うウクライナ人は愛国心の塊に見えるけれど、彼らはもともと自分の国があまり好きではない。私は何回もウクライナを訪問しているが、若い人は特に、ウクライナを離れてEUやアメリカなどで働きたいと話していた。プーチンもウクライナ人の愛国心は薄いと判断したから、2日でケリがつくと踏んで侵攻したのだろう。

しかし、ゼレンスキーが掲げたEU加盟は容易ではない。彼自身も初めから空手形で、在任中には無理だと思っていただろう。EU加盟を望む国はほかにもあり、トルコなど5カ国がすでに待っている。トルコなどは、もう17年も加盟交渉がまとまっていない。

一方、NATOのほうは、EUよりは加盟しやすい。最近でも、20年に北マケドニアが、17年にはモンテネグロが加盟している。しかし、NATOは軍事同盟だから、隣国が加盟することをプーチンが許せるわけはない。

さらに、ウクライナは、ソ連時代はICBM(大陸間弾道ミサイル)、航空母艦など兵器も開発していた。核兵器も開発していて、1991年に独立した時点で、ウクライナには約1900発の核弾頭があり、米ロに次ぐ世界第3位の核保有国だった。米ロ英は3カ国による安全保障を条件として、ウクライナに核兵器を放棄させた。94年の「ブダペスト覚書」だ。フランスと中国も、別々の書面でウクライナに核兵器の撤去を条件に安全保障を約束している。

ところが、ゼレンスキーは22年2月に「ブダペスト覚書は再検討できるはずだ」と発言した。ロシアに小突きまわされるのは核兵器を手放したせいで、核を保有すれば対等に交渉できる、という意味だ。

EU加盟、NATO加盟、核再武装は、ゼレンスキーが支持率を回復するための3点セットだった。しかし、「こいつは思った以上にワルだ」とプーチンのイライラは頂点に達したのだ。

そもそもプーチンのイライラは、ゼレンスキーが大統領に就任した頃から始まっていた。ゼレンスキーが「ミンスク合意なんて知らないよ」という態度を見せていたからだ。