そこで次なるキーワードとして浮上してくるのが「劇的寛解」という言葉です。

この言葉は、長年にわたる臨床や研究の末に私が用い始めた造語ですが、同時期に米国の腫瘍内科学の研究者として知られるケリー・ターナー博士も、日本で翻訳出版された『がんが自然に治る生き方』(プレジデント社、2014年)などの著書の中で、「Radical Remission(根本的な寛解=劇的寛解)」という概念を提唱しています。

寛解は「根本的な治癒には至らないものの、病勢が進行せずに安定している状態」のことですが、私はこの概念をさらに前進させる形で、劇的寛解を「標準がん治療ではおよそ考えられない寛解状態が長く続くこと」と定義しました。

つまり、この劇的寛解こそが、前述した「治る」と「治らない」の間に存在する、あるいはその間隙を埋める究極の概念なのです。

「余命半年」の肺がん患者が3年後に現れた

実は、私が今述べた「劇的寛解」というオリジナルな言葉と概念に辿り着くキッカケを与えてくれたのはAさんという京大病院時代の患者さんでした。

私が京大病院呼吸器外科の教授を退官(2007年)して間もなくのことです。退官から数年の間、私はいくつかのクリニックや中規模病院で外来を受け持っていましたが、その私の外来にAさんがひょっこりと姿を現したのです。

私はAさんのお元気そうな様子を目の当たりにして驚きました。というのも、Aさんはすでに肺がん(原発巣)が体のあちこちに転移していた患者さんで、およそ3年前、私が京大病院で手術不能と診断していた末期の患者さんだったからです。その後、Aさんは延命のための抗がん剤治療や放射線治療を受けていましたが、私は初診の段階で「余命は半年くらいだと思います」とも伝えていたのです。

和田洋巳『がん劇的寛解』(角川新書)
和田洋巳『がん劇的寛解』(角川新書)

そんな経緯があったものですから、たいへん失礼ながら、私は「Aさんはとっくの昔にお亡くなりになっている」と思い込んでいました。

私は眼の前に現れたAさんに虚心坦懐たんかいに尋ねました。

「Aさん、お元気そうで何よりです。それにしてもビックリしました。いったい、どのようにして、あの肺がんを乗り越えられたのですか」

すると、Aさんは次のようにおっしゃったのです。

「食事療法です。食事を変えたら、こうなりました」