がんに気づかないまま老衰死する高齢者は多い

日本では今、「2人に1人ががんにかかる」と言われています。しかし、これは日本人が「一生のうちにがんと診断される確率」を述べたもので、すべての世代で2人に1人ががんにかかることを示しているわけではありません。

事実、公益財団法人がん研究振興財団がまとめた「がんの統計’19」を見ると、例えば日本人男性ががん(対象は全がん種)にかかる確率は、39歳までが1.1%、49歳までが2.6%、59歳までが7.7%、69歳までが20.9%、79歳までが41.5%と、歳を取るにつれて上昇し、80歳以降(生涯)では63.3%に達しています(女性の場合も同じ傾向)。要するに、がんにかかるリスクは加齢とともに急増していくというのが、「2人に1人ががんにかかる」という統計数字の本質なのです。

しかも、このデータは一生のうちにがんと診断される確率を示しているにすぎず、がんにかかっていることを知らずに天寿を迎えた高齢者はカウントされていません。このようなケースも含めた場合、高齢者ががんにかかる確率は「2人に1人」をはるかに上回る数字になると考えられるのです。

実際、老衰で死亡した高齢者を解剖すると、かなりの高確率でがんが見つかります。そして、がんにかかっていたにもかかわらず、本人も家族も医師もそうとは気づかぬまま、がんではなく老衰で亡くなった、すなわち天寿を全うできたという意味で、このようながんは「天寿がん」と呼ばれているのです。

「治るか死ぬか」二択の間で見えてくる視点

天寿がんは「安らかに人を死に導く超高齢者のがん」と定義されています。

定義にある超高齢者とは男性なら85歳以上、女性なら90歳以上とされていますが、中には、亡くなる数カ月前から胃の不調や食欲不振を訴え、死後の解剖の結果、胃の出口付近にがんがあったことが判明した、といったケースもあります。この場合、死因は老衰ではなく胃がんによる消化管の通過障害だったということになりますが、外形的にはだんだんとものが食べられなくなって老衰による自然死を迎えたように見えるのです。

このようなケースも含めて考えると、天寿がんは「超高齢者を最小の障害で死に導くがん」と定義づけることもできるでしょう。

しかし、私がここで問題にしたいのは安らかな死に方ではなく、天寿がんが物語る真実から見えてくる新たな視点です。