日本の標準がん治療では、「治らない」とされるIV期まで進行すると、医師が余命を伝えることがある。京都大学名誉教授の和田洋巳医師は「私が『余命半年』を宣告した患者さんは、18年たった今でも元気に過ごしている。これは『治るか死ぬか』しかない標準治療の常識を覆すものだった」という――。

※本稿は、和田洋巳『がん劇的寛解』(角川新書)の一部を再編集したものです。

座っているシニアの脈を測っている女医の手元
写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
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がんはどうやってヒトを死に至らしめるのか

そもそも、がんはどのようにして宿主であるヒトを死に至らしめるのでしょうか。まず、この点について掘り下げていきましょう。

標準がん治療では「治らない」とされるIV期の固形がんを例に取ると、多くの場合、患者は原発巣から転移した他臓器が機能不全に陥ることによって死に至ります。そして、転移巣で起こる臓器不全には、1つの臓器が致死的な状態に陥る単臓器不全と複数の臓器が致死的な状態に陥る多臓器不全の2つのケースがあります。

単臓器不全について言えば、転移巣の増大によって、例えば腎臓が機能不全に陥る腎不全、肝臓が機能不全に陥る肝不全などがあります。内臓の腹膜に散らばった豆粒のような転移巣、いわゆる腹膜播種はしゅが増大して消化管を圧迫した結果、消化管の通過障害によって死に至るケースなども、単臓器不全に含めていいでしょう。

一方、転移を来した複数の臓器が同時多発的に機能不全に陥る多臓器不全は、多くの場合、極量の抗がん剤による乗り換え治療を続けた結果として起こってきます。抗がん剤治療は臓器に転移があるか否かを問わずヒトの全細胞に絨毯爆撃を加えていくような荒療治であること、またがんは抗がん剤耐性を獲得していくたびに一段と狂暴化して猛烈にリバウンドしていくことが、結果的にしばしば多臓器不全をもたらすのです。

がんが体内にあるだけで死ぬことはほぼない

もっとも、私は抗がん剤治療を全面的に否定しているわけではありません。「抗がん剤も使い方次第」というのが私の基本的なスタンスです。例えば抗がん剤の使用量を減量した場合、あるいは抗がん剤治療を途中で中止した場合、さらには抗がん剤治療そのものを行わなかった場合などでは、仮に複数の臓器に転移があったとしても、患者の多くは多臓器不全ではなく、最初に陥った臓器の機能不全、すなわち単臓器不全で死に至ります。

では、がんが宿主であるヒトを死に至らしめるこれらのプロセスを逆方向から眺めた場合、どのような風景が見えてくるでしょうか。

抗がん剤はその強い毒性によって患者にしばしば副作用死をもたらしますが、がん細胞そのものがヒトを死に至らしめる毒素を作り出しているわけではありません。

つまり、たとえ体の中にがんがあったとしても、それだけで死に至ることはほとんどあり得ないのです。別の言い方をすれば、複数の臓器に転移があったとしても、転移巣が臓器不全を起こさなければ、ヒトががんで死ぬことはまずない、ということになります。

そこで注目していただきたいのが「天寿がん」の存在です。