この仕事は、子どもを置いてでもやる価値があるか

一方、仕事をするうえでも優先順位をつけることが必要。現在の会社には約100名のメンバーがいる。プロジェクトを率いる立場として、メンバーが問題を抱えて先へ進めないときは素早く察知して対応する。チーム同士の不協和音など、人間関係のトラブルを迅速に解決するのはリーダーの役目。時間もエネルギーも使って対応しているという。

仕事と子育てを両立するために、松岡さんが自分の中できちっと線を引いていることがある。

「仕事へ行くときに必ず考えるのは、これは子どもを置いてでもやる価値があるかということ。そう自分に問いかけながら、ちゃんと意義のある仕事をしているという自負を持っていたいと思います。だから、ミーティングの間は集中して、子育ての悩みも頭の中からターン・オフに。家ではなかなか仕事モードをオフにできなくて、『ママはまた聞いてない!』と子どもに怒られることもありますが(笑)、上手に分けられたらいいなと思っています」

「コーチの教え」を理解するのに10年かかった

明るく賢明な松岡さんにも昔は波があったという。仕事と子育ての板挟みになって落ち込んでしまったことも。例えば、子どもが学校で問題を起こしてしまい、「明日は絶対にママが来てくれないと困る」と泣いている。親としては傷ついた子が心配でならず、先延ばしはできない。一方、会社では重要なミーティングが入っていて、自分が説明しなければプロジェクトが頓挫してしまうかもしれない。どうすればいいのだろう……と、葛藤することは幾度もあった。

「エモーショナルな問題が同時に3、4個並ぶと大変です。どちらも大事で本来ならどちらかだけをチョイスすべきではない選択肢が並ぶから。若い頃はベッドの布団の下で『もう絶対に無理!』と。明日が来るのが怖くて、ずっと隠れていたこともありましたね。そうしてぎりぎりまで追い込まれたとき、女性のエグゼクティブコーチに教えられたことがあったのです。私は『子どものことが大変。会社でもこんなことが起こっていてどうしたらいいの』と訴えたのに、その方は『まず、あなたの心と身体の健康を取り戻しましょうね』と。最初は何を言っているのかわからなかったけれど、実はその大切さに気づくまでに10年かかったのでは……」と松岡さんは苦笑する。