人のふんどしで相撲をとる資金調達方法もある

この買収劇を通じて、私たちはいろいろな買収防衛策を知ることができました。黄金株(株主総会での拒否権付きの株式)、パックマン・ディフェンス(逆買収による反撃)、ゴールデン・パラシュート(役員解任を防ぐため、退職金を膨大な額に設定)、プット・オプション(「経営陣が変更すれば一括返済を請求可」との条件付きの銀行借入)……それとともに、企業の買収防衛に対する意識はグッと引き締まり、策を講じる企業も急増しました。

また、企業買収を仕掛ける際の資金調達方法も、この時に初めて知った人も多かったのではないでしょうか。それはLBO(レバレッジド・バイアウト)と呼ばれる手法です。LBOとは「買収先企業の保有資産やキャッシュフローを担保に、金融機関から資金を借り入れて行うM&A」のことで、わかりやすくいうと「この会社、もうすぐ俺のものになるから、ここにある金目のもの全部担保にして金借りるね」という手法です。

こんな「最初から人のふんどしをあてにして、相撲をとるような資金調達方法」があるとは、私も知りませんでした。しかもこれ、M&Aではわりと一般的で、ハゲタカファンド以外も利用していました。

強気市場の利益のビジネスとファイナンス
写真=iStock.com/Darren415
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たとえば日本では、2006年にソフトバンクがボーダフォンを買収した際のLBO(買収額1.7兆円のうち、約1兆円がLBOでの借入れ)が、非常に有名な成功例です。

ただし、これをすると資金をたくさん借りられる反面、返済負担も重くなるため、思ったほど買収が効果的でなかった場合、返済負担に経営再建が追いつかず経営は破綻、最後は会社の保有資産を切り刻んで売却、といった具合に、多方面から恨みを買うM&Aになってしまうこともあり得ます。

このように、いろいろ学べた「ライブドアvs.フジテレビ」ですが、さらに時間が経過した今日、M&Aをめぐる環境は、より興味深く変化してきました。実は最近は「買収防衛策を廃止」する企業も増えてきたのです。

つまりあの一件は、さまざまなステイクホルダー(=利害関係者)に「企業買収の是非」を考えさせる契機となったのです。「アカの他人に、うちの会社を敵対的に乗っ取られるなんて……」。確かに企業買収を旧経営陣目線だけで情緒的にとらえたら嫌なものです。

しかし、その買収によって経営陣は有能な人たちに入れ替わり、資源は有効活用され、その結果、従業員の給料、株価、企業価値などが上がるとしたらどうでしょう。決して悪い話ではありませんよね。

つまりM&Aを「企業が生まれ変わるチャンス」と考えたら、否定だけが選択肢ではないことに気づく人が増え始めたのだろうと私は思うのです。みなさんが働く会社がM&Aにあったとしたら……あなたはどう考えますか。

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