大前流思考術、原点の1冊

社会変革、国家戦略本のジャンルでは、原点に当るのが『大前研一の新・国富論』(86年)と、『平成維新』(89年)、『平成維新 part 2』(92年)。この3冊に最新刊の『最強国家日本の設計図』『訣別』(11年)を加えた5冊を、書いた順番に読んでもらえば、「ははあ、この辺が改定してきているんだな」と、大前研一の日本に対する思いや危機感、思考の系譜をトレースしてもらえると思う。私の中で徐々に芽生えてきた考えというものもあるので、逆読みされることには若干の違和感がある。この1冊だけ読むというなら、最新作の『訣別』になるだろう。

個人的なエッセイ系のジャンルでは、『加算混合の発想』(80年)が大前流思考術の原点的な本だ。やりたいことをやって人生をエンジョイすべしという私の人生哲学を記した『遊び心』(88年)と、その続編の『やりたいことは全部やれ』(2001年)、大前流の極上の旅をテーマにした『旅の極意、人生の極意』(06年)あたりはプライベートな人生観が詰まっている。

人生後半をどのように生きるかというテーマに向き合った中高年のビジネスマンに特に読んで欲しいのが、『50代からの選択』(08年)。反抗期の子供の付き合い方に悩んでいる親なら、『親が反対しても、子供はやる』(07年)。自分が実践した教育論をそのまま記した。我が家の子供は全部親が反対したことをやったけれど、きちんと育って稼ぐ力も身につけてくれた。ただし、行った学校は(ほとんど)全部ドロップアウト。それでも今の時代はそういう育ち方をして良かったと自信を持って言える。下手にいい学校を卒業すると、学校や会社に期待してしまう。学校にも会社にも期待できないとなると、最後は自分を磨いて稼ぐ力を身につけるしかないのだ。

思い返せば、私が子供の時分もそうだった。親の言うことも、先生の言うことも全然聞かなかった。会社に入って上司の言うことを聞いたこともない。その分、苦労はしたのかもしれないが、気にしたことはない。自分がやりたいことをやってきたのだから、後悔もなければ、思い残すこともない。

(小川 剛=インタビュー・構成 市来朋久=撮影)