もの忘れの頻度と程度が広がると認知症へ移行の恐れが
もの忘れと認知症を混同する人もいますが、もの忘れは症状のひとつでしかありません。例えば寝不足や疲れが影響してもの忘れが起こることもあるわけです。注意したいのは症状の変化です。もの忘れの頻度・程度・広がりに注意をすることが大切です。
・程度……大切な会議やアポイントなど、より重要度が高いもの、他人に迷惑がかかることを忘れる。
・広さ……言葉が出ない、計算が苦手になる、歩きづらくなるなど、もの忘れ以外の症状が加わっている。
こういった症状は周囲からはわかりづらいため、自分で変化を見逃さないことが重要で、SCDの段階で発見することが可能になります。
各自治体などで行われる脳機能チェックは、MCIを発見するためのものです。軽度認知症発症の前段階から対処することにより、16~41%の人が元気な状態に戻ったという報告もあります(※)。以前は軽度認知症が進行してから診断を受けることが多く、予防への対応の遅れが指摘されていましたが、現在は発症前段階から関与することにより、認知症の発症を遅らせることができるようになっています。
それでもMCIと診断された人のうち、年間5~15%の人は認知症へと移行することも医学的な調査でわかっています(※)。ここからは進行を遅らせる3次予防になります。
(※)出典=「認知症疾患診療ガイドライン2017」
認知症は予防する時代になった
認知症予防が可能になったもうひとつの理由として、リスクファクターが解明されてきたことが挙げられます。ではどのようにすれば認知症を防ぐことができるのかをお伝えしましょう。
WHOは2019年に認知症予防ガイドラインを発表し、次の12の柱を挙げました。
①運動などの身体活動
②禁煙
③健康的な食事
④アルコールの管理
⑤認知トレーニング
⑥社会活動
⑦体重管理
⑧高血圧の管理
⑨糖尿病の管理
⑩脂質異常症の管理
⑪うつ病への対応
⑫難聴への管理
さらに2020年には世界的医学雑誌『ランセット』に、「危険因子が排除された場合の認知症有病率の減少率」という論文が発表されました。
右側は主に中年期、左側は老年期の危険因子となります。この表によると、例えば中年期に聴力低下を治すと認知症有病率は8%下がると報告されています。
ここでも高血圧、飲酒、肥満、喫煙、うつ病、社会的孤立、運動不足、大気汚染、糖尿病などが認知症を引き起こす重要な危険因子だということが報告されています。
社会的にも、個人的にも、すべてのリスクファクターへの対策を講じれば、認知症患者は40%減るという推測も出ています。