王者→市議会議員→現役復帰

ここから、ビタリの政治活動がスタートしたと言ってよく、事実この翌年、王者のまま現役を引退。2006年にはキエフ市長選に立候補し落選するも、同年に行われたキエフ市議会議員選において比例代表で当選を果たす。このまま政治家としてキャリアを積んでいくものと誰もが思った。

しかし、想定外の展開を迎える。2007年に突如現役復帰を表明したのである。そしてあろうことか、4年ぶりの復帰戦が、いきなり世界再挑戦となったことに世間は驚いた。狙うはかつて自身が保持していたWBC世界ヘビー級のベルトである。

2010年10月16日、世界ボクシング評議会(WBC)ヘビー級タイトルマッチで、挑戦者のシャノン・ブリッグス(左)を攻める王者ビタリ・クリチコ(ウクライナ)。クリチコが3−0の判定で下し、5度目の防衛に成功した(ドイツ・ハンブルク)
写真=EPA/時事通信フォト
2010年10月16日、世界ボクシング評議会(WBC)ヘビー級タイトルマッチで、挑戦者のシャノン・ブリッグス(左)を攻める王者ビタリ・クリチコ(ウクライナ)。クリチコが3-0の判定で下し、5度目の防衛に成功した(ドイツ・ハンブルク)

「史上初兄弟同時世界ヘビー級王者」

ファンや関係者の多くは、当然その無謀さをわらった。しかし、試合は意外なものとなる。王者・サミュエル・ピーター(ナイジェリア)を相手に試合を優位に進め、8RTKO勝ち。4年ぶりのカムバックを白星で飾ったばかりか、世界王者に返り咲いたのだ。

同時に他団体の世界ヘビー級のベルトを手にしていた弟のウラジミール・クリチコとの「史上初兄弟同時世界ヘビー級王者」という偉業を成し遂げたのである。

2008年から4年間は、兄がWBC、弟がWBA、IBF、WBOとすべてのメジャータイトルを独占している。この記録は、おそらく、この先も破られないだろう。

さらに特筆すべきは、9度の王座防衛に成功したことだ。「巨人は激しく倒れる」の時代はもはや遠い過去となり、クリチコ兄弟の栄光がボクシングの歴史と常識を変えたと言っていい。