話し上手より「聞き上手」になったほうがいい

前項で、「自分のやることが必ず、誰かのためにもなっている」という、Yさんの行動の基本をご紹介しました。でも、次のように思ってしまう人も、多いと思います。

「『誰かのためになる』とか『誰かに褒められる』を意識しすぎると、ただの『都合のいい人』になってしまうんじゃないか」あるいは、「自分がもともとやりたかったことが、他人の意見に左右されて、ブレてしまうんじゃないか……」

ではYさんは、自分のやりたいことと、誰かが必要としていることがうまく噛み合わないとき、どうしているのでしょうか。

まずは、自分がそういう立場になったと想定して、検証していきましょう。あなたなら、そういうことが起きた場合、どういう行動をとりますか?

言いたいことはガマンして、自分を殺し、相手の意図に合わせるでしょうか?

それとも、「この人とは話が合わない……」と距離を置きますか?

中には、強い態度で自分の意図を主張する人もいるかもしれませんが、ケンカ別れになってしまうことが多いでしょう。

まずは相手にとことんしゃべらせよう

Yさんの態度は、どれとも違います。彼は一見、受け身のように見えるほど、柔らかな態度をとります。それでいてなぜか、彼の手にかかると、彼がやりたいように物事が進んでしまいます。ちょっと不思議ですよね。

Yさんは非常に迫力のある人なので、相手が自然とYさんに合わせるというような側面も、なくはありません。でもYさんはそれ以前に、あることを工夫しているようなのです。

自分では企業秘密(?)と思っているのか、はっきりとは口にしませんが、私は次のように思いました。

それは、最初はとにかく相手にしゃべらせること。

話し上手よりも聞き上手に徹するのです。人は誰でも、自分の話をちゃんと聞いてくれると嬉しくなるものです。

セミナーに出席するビジネスマン
写真=iStock.com/Dean Mitchell
※写真はイメージです

すると相手は気分が良くなってきて、聞いてくれる人を信頼しやすくなります。

このようにして信頼を得る方法を、「ラポールの形成」といいます。クライアントとの信頼関係を築くために、カウンセラーが使うテクニックです。

「聞き上手」になるための近道

とはいっても、ただずっと聞いているだけではいけません。ラポールの形成では、相手に好意と尊敬の念を持つことも大事です。

Yさんはいつも、相手に対して尊敬の気持ちを持つように心がけていたのです。すると相手にもそれが伝わり、自然とYさんに対して敬意を持つようになるのです。

これがラポール形成の近道であり、王道ともいえるでしょう。