世界で電気自動車(EV)へのシフトが進むが、日本車メーカーの動きは鈍い。元東大特任教授の村沢義久さんは「日本の経営陣は『モノづくり世界一』の自負を引きずるあまり、世界の変化を見ていない」という――。

※本稿は、村沢義久『日本車敗北 「EV戦争」の衝撃』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

信号待ちで並ぶ車列
写真=iStock.com/Ziviani
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衰退したアメリカと同じ道を辿っている

世界ではSPAC、委託生産、サブスクリプション、BaaSと、自動車のビジネスモデルに大変動が起こっている。なのに、日本ではビジネスモデルの革新どころか、EVの普及さえままならない。

世界に先駆けて「i-MiEV」「リーフ」を発売した日本は、今や完全なEV後進国となっている。何が問題なのか。

筆者が経営コンサルタントとしてアメリカで仕事をしていた1980年代には、アメリカ企業は非常に内向きだった。

例えばアメリカの鉄鋼産業や自動車メーカーは日本勢の躍進を見ながら、その脅威を過小評価していた。

ある自動車メーカーの幹部は、「日本の自動車産業が強く見えるのは賃金の安さによるもの」と公言していた。

もちろん、我々コンサルタントがその考えを訂正したのだが、一度固くなった頭はなかなか柔軟にならず、その後アメリカの自動車および鉄鋼産業の衰退につながった。

現在の日本企業は、1980年代のアメリカ企業の真似をしている。世界の動きに目を向けず、いまだに根拠のない「モノづくり世界一」の自負を引きずり、中韓メーカーの実力を過小評価している。

日本企業の経営幹部は英語のニュースに接していないのではないか、とさえ思える。

VWやフォードにできて、日本車にはなぜできない?

EVという新しい産業分野では、テスラ、NIO、BYD、フィスカーなど海外企業が突っ走っている。

だがこのクラスのEVベンチャーは日本には皆無だ。イーロン・マスク、李斌(リー・ビン)、王伝福(ワン・チュアンフー)、ヘンリック・フィスカーのようなベンチャー起業家も出て来そうにない。

ベンチャーに限らず、大企業も同様だ。VW、GM、フォード、ボルボなど欧米の大手自動車メーカーはEVベンチャーの台頭に危機感を持ち、シャカリキにEV化を進めている。

こうした大企業では、ヘルベルト・ディース、メアリー・バーラ、ジム・ファーレイといった経営トップのリーダーシップが感じられる。

VWは、2021年6月、「2033年から2035年までに欧州で内燃機関車から撤退し、しばらく遅れて米国と中国でも同様の取り組みを進める」と発表している。2020年9月に発売された純粋EV「ID.3」、2020年末に発売された「ID.4」は売り上げ好調だ。

GMは、2021年1月28日、2035年までにガソリン車の生産と販売を全廃し、EVなどCO2を排出しない車に切り替える目標を発表した。

フォードは2021年2月17日、ヨーロッパで展開する乗用車を、2030年までにEVのみとする計画を発表した。中間目標として、まず2026年半ばまでに、ヨーロッパで販売する乗用車をEVと、PHVに絞る方針。その後はEVのみとする。