職場のやりとりでは、心の中では思っていても、口に出してはいけない「NGワード」がある。スピーチライターのひきたよしあきさんは「『こうなると思っていた』『だから言ったのに』という言葉は要注意。特に上司がそんなことを言えば、部署の空気は急速に悪くなってしまう」という。ひきたさんの著書『人を追いつめる話し方 心をラクにする話し方』(日経BP)より、2つのケースを紹介しよう――。
新規事業に挑戦するチームに上司はなんと言うか
<CASE:1登場人物>
北風上司 総合イベント会社営業一課課長。1977年生まれ(45歳)。入社から営業一筋。売り上げ目標、ノルマに厳しく、それを達成するには手段を選ばないところがある。
梅津由紀 入社11年目。チームリーダー。
北風上司 総合イベント会社営業一課課長。1977年生まれ(45歳)。入社から営業一筋。売り上げ目標、ノルマに厳しく、それを達成するには手段を選ばないところがある。
梅津由紀 入社11年目。チームリーダー。
大規模イベントが、世界的に縮小傾向にある。
人が集まること自体が疑問視され、ネット動画が急速に発達した。大きなイベントが無観客で開催されたのを機に、「ネット配信で見れば十分」という空気も醸成された。
イベント会社としては、なんとか次の食いぶちを探さなければならない。
私たちのチームも、予算と得意先に合った新規事業を考えるように命じられた。
「ラーン・ビジネスも視野に入れようよ。うちは教育系は強いよ」
「マッチングビジネスも可能だと思う。集客のプラットフォームとかつくれないかな」
「デジタルパンフレットやデジタルCMもやろうと思えばできる」
と、議論は盛り上がる。今のままでは早晩行き詰まる。若手はそこに危機意識を持っている。だから議論は白熱した。一度、リモート会議を終えた後、集まれる人だけ集まろうと声を掛けたら、全員が参加してくれた。リーダーの私は、それだけでも十分うれしかった。
満場一致で「いいね」という企画書が完成したが…
新規事業の企画書は、みんなで手分けしてスライドを作成する。それをモニター上で確認しながら、もんでいく。「会議室に集まっているよりも、効率がいいと思います」と若手から声が上がる。そうだよ、こういうチャレンジを繰り返して、新しいビジネスはできていくものなんだよ。
企画書ができたとき、全員が画面に向かって手のひらを細かく振った。これがチームの「いいね」の合図。称賛の拍手だ。よし、これで万全。会社の未来は明るいぞ!
明日10時、まずは北風上司に見てもらう。よければすぐに役員に上げてもらう。熱気がおさまらぬなか、私たちはパソコンのスイッチを切り、明日の会議に備えた。