「文藝春秋」を知人に配ったワケ

【中村】『文藝春秋』(1975年2月号)に「日本の自殺」(著:グループ一九八四)という論考が掲載されました。

豊かさを享受する日本だが、このままでは道徳心を失って、かつて栄華を誇ったローマ帝国と同じ没落の道を進むだろうという内容です。

パンとサーカス――食料と娯楽で満たされれば、国が滅びてしまう。

ご自身の危惧がそのまま書かれたような「日本の自殺」に感銘を受けた土光さんは『文藝春秋』をたくさんの人に配りました。危機感を一人でも多くの人に共有してほしかったからでしょう。

「日本の自殺」が世に出てから、もうすぐ半世紀になります。令和の日本社会を見ていると、土光さんの懸念が現実になってしまったように感じます。

だからでしょうか。最近、私はよく土光さんについて考えます。

40年前から再生エネルギーに注目していた

——若い世代では土光さんを存じ上げない方も出てきています。中村さんは、土光さんのどういう思いを知ってほしいですか。

【中村】土光さんはいつも厳しいまなざしをしていました。矛盾するようですが、その目からは厳しさとともに、優しさも感じられました。

中村芳夫『バチカン大使日記』(小学館新書)
中村芳夫『バチカン大使日記』(小学館新書)

常に日本をよくしたいという意欲を持っていましたね。80歳を過ぎても、政府が掲げた「増税なき財政再建」のもと行政改革に着手し、国鉄、電電公社、専売公社の民営化を実現しました。

エネルギー自給率を高める必要性も感じていて、太陽光とか再生エネルギーにも注目していましたね。

社会全体が、安定志向、内向きになっているからこそ、土光さんの前向きな生き方、考え方を、現代の若者にも知ってほしい。

こうして振り返ると土光さんは、たくさんの人に夢を与え、力を奮い立たせた不世出のリーダーだったと感じるのです。

(聞き手・構成=ノンフィクションライター・山川徹)
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