語尾のテンプレ化が気になってしまう

これを現在の日本語のコミュニケーション状況として眺めると、表面的な配慮は多様化しているにもかかわらず、実際の対人的側面における交渉的配慮は後退し、コミュニケーション全体としては貧弱化していると見ることができます。その意味で、「させていただく」をめぐる問題は、使う側の便利さというメリットが、受け取る側への不快感というデメリットになる矛盾を孕んでいます。そのことは、図表2のように図式化できます。

前にくる動詞の選択肢が多様化して距離感が調節できることは、話し手のインセンティブになっています。使う側は「させていただく」を敬意マーカーとして自分の丁寧さを演出するために使います。しかし、聞き手が気になるのはそこではなく、後ろの活用部分の固定化です。聞き手は「させていただきます」という言い切り形のために、コミュニケーションが自分に開かれていない印象を持つわけです。

「聞き手がどう感じるか」も考慮すること

ここでも話し手の意図と聞き手の解釈が食い違っています。実際のコミュニケーションでは、そこに年齢差や社会的役割が関わってくるのですから、意味合いはもっと複雑になっているはずです。

ここで考えているのは、話し手は丁寧に言ったつもりなのに、相手が失礼だと思うような場合のことです。ポライトネスのはずがインポライトネスになっています。ポライトネスを考える際には、話し手側の意図だけでなく聞き手側の捉え方も考慮に入れなければならないというのが、最近の考え方です。ここで示した「させていただく」をめぐる矛盾は、そのこととも呼応しています。「させていただく」表現に対する矛盾した印象は、こうした話し手側と聞き手側の視点の違いに関係しているのかもしれません。

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