子育てではなにを心がけるべきか。解剖学者の養老孟司さんは「現代は人生がカーナビに従う車のようになってしまった時代だ。目的に向かって最短距離で走り続ける人生は、親も子も不幸にする」という。小児科医の高橋孝雄氏との対談をお届けしよう――。

※本稿は、養老孟司『子どもが心配 人として大事な三つの力』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

叱られた少年と母親
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過剰な教育は「子ども時代」の幸せを奪う

【養老】私は最近、「自足」という言葉をよく使います。「自らを満たす・充足させる」という意味合いで、この「自足」の状態を悟っていないと、人生はなかなか上手くいかないものでしょう。

たとえば猫は、自分の居心地の良い場所を見つければ、それで満足する。一方で、ジェフ・ベゾス(アマゾン創業者)は宇宙旅行をしていましたが、これは自足以上の欲にみえてならない。

ベゾスの例は極端にしても、個々人の過剰な欲が膨れ上がり、世界全体を道理に合わない方向に動かしているように思います。

【高橋】なるほど、実に興味深い話です。それでは養老先生は、日本という国が自足するためには何が必要だと考えますか?

【養老】何もかも手に入るわけではないけれども、生きているだけで満足できる。そんな状況を、生まれてくる子どもたちに対してつくってあげないといけないでしょう。何も難しいことではありません。親が子どもに対して「あなたたちが元気に飛び跳ねていてくれればいい」とさえ、願えばよいのです。

にもかかわらず現状は、「あなたの将来のためだから」と言ってわが子に過剰な教育を強制し、いまある楽しみを我慢させている。それは、親が自分の不安を子どもに投影させているだけです。

子どもたちの日常の幸せを、まず考えてやらなければなりません。