地に足がついていて、ブレない生き方

佐賀で出会った人々から醸し出されるすがすがしさ、付き合いやすさに私は日々助けられ、癒やされている。また、穏やかな人柄や落ち着いた暮らしぶりに触れ、敬意を抱くことも少なくない。そしてなにより、彼らの大半は生きざまにブレがない。それが素晴らしい。

出会った人のなかには「職場を辞めたい」なんて話をポロリと口にする人物もいたが、「目をかけてくれた先代経営者への恩義がある」「自分が唯一の防災管理者なので、辞めてしまったら職場がまわらない」などと高潔に語り、そのうえで「子どもを無事に巣立たせるまで、仕事を離れるわけにはいかない」と自らを諭すのだ。さらに「いろいろとキツいこともありますが、中川さんとこうして会っているときは楽しいです」とまで言ってくれるのだから、恐縮するほかない。

彼らの言動は総じて地に足がついている。そして、家族を守る覚悟や、休日に娯楽を楽しむ気概にも満ちている。「ピザ好きが高じて、庭にピザ窯を組んだ」やら「薪ストーブを今年から家に導入しました」なんてことを30代前半の若者が普通に話すのだ。いずれも自宅をローンで購入し、家族を養っている。

火鉢で餅が焼けるのを待っている猫
写真=iStock.com/ramustagram
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東京から遠く離れてみて、初めて知ったこと

こういった人生が、東京から1100km離れた佐賀県にあったのだ。いや、恐らく日本の地方都市の多くはこのような感じなのだろう。ただ、それまで地方で長期間暮らした経験がなかった私は、かような生き方について実感を伴った形で把握していなかった。これは衝撃的だったし、目からうろこだった。

そんな人々と1年3カ月ほど付き合ってみると、東京でしきりと喧伝されていた「成功」やら「自己実現」やら「セルフブランディング」やらのうさんくさい言説は一体なんだったのだ? といった感覚になってしまう。

あまり好きな言葉ではないが「人生の勝ち組・負け組」といった話でいえば、恐らく「フリーライター・48歳・既婚・子なし・地縁なし」という私よりも、地方で暮らす彼らのほうが「勝ち組」になるのではないだろうか。なにしろ「掴みどころのない夢」の対極にある「目の前の現実」がとても充実しているし、昔からの人間どうしのつながりでセーフティネットが大都市より機能していると感じられる。