地元高校生の進路に感じるすがすがしさ
以前、この連載で「人生に絶望したくなければ『夢』なんて持つな」「生きていくうえで重要なのは、掴みどころのない『夢』なんかではなく、現実の延長線上にある具体的な『目標』を持つことだ」といった趣旨の記事(「『“世界に一つだけの花”というウソ』夢をあきらめる人生のほうが絶対に幸せだ」)を書いた。今回は、その続編的な話をしようと思う。
私は現在、佐賀県唐津市を拠点にしているが、地元紙の佐賀新聞のなかに、毎回目を通すのを楽しみにしているコーナーがある。この春に高校を卒業する生徒たちを紹介する「巣立つ」という欄だ。そこには高校生活の思い出や取り組んできたことなどほか、卒業後の進路についても書かれており、これが実に味わい深い。なんというか、とても地に足がついていて、すがすがしいのである。
進路は市役所、自動車ディーラー、地元のメーカーや施工業者、地元電力会社の子会社などさまざま。大学進学はそこまで多くない。地域社会に出る若者を応援したいという新聞社の編集方針も介在しているだろうし、取材を引き受ける生徒(および保護者)が地元重視なのかもしれないが、彼らの進路を見るにつけ「きっと、この若者たちはよい人生を送るのだろうな」と思わずにはいられないのだ。
佐賀県で出会った穏やかな人々
東京で育った私が、縁もゆかりもない唐津で暮らしはじめたのは2020年11月1日のこと。以来、現地でたくさんの人々に出会い、交流を持つ機会に恵まれている。そうした付き合いを通じて、私は頻繁に「あぁ、この人はなんて“地に足がついている”のだろう」という感覚をおぼえるようになった。
先述した高校生たちの記事を読んでいると、私がいま唐津で交流している30代以降の人々の姿が重なってくる。この高校生たちも将来、充実した日々を地元で送っている大人たちと同じように暮らしていくに違いない──そんな確信めいた感情を抱いてしまう。
唐津で暮らすようになってから出会った人々の職業は、たとえば飲食店経営者、公務員(県や市の職員、消防士など)、農家、アウトドアガイド、ピアノの調律師、携帯電話販売店チェーン経営者、看護師、卸問屋、電機技術師、唐津焼販売店店主などだ。
東京でわりと見かけた「オレ、なんか起業したいんだよね~」「分野は?」「いや、そのあたりはまだ詰め切れてないけど、社長になりたいんだよ。まずは個人事業主でもいいんだけどさ~」みたいな手合いには会ったことがない。
また、クリエイティブ界隈でフリーランスとして活躍する人物がメディアで注目され、インタビューを受けたりしている姿を目にしては「アイツばかりおいしい思いをしやがって。オレのほうが才能あるのに……」といった妙なルサンチマンを募らせているような人にも、ほとんど遭遇しない。
もちろん、佐賀で出会った人たちもそれぞれに個性はあるし、黙々と職務にあたるタイプもいれば、将来の展望や目標を率直に言葉にするタイプもいる。ただ、隙あらば相手を出し抜こうとしたり、むやみにマウントをとってきたり、「自分はこんなにスゴイのだ」とアピールしてきたりすることがほぼない、という点は共通しているように感じる。