年功序列の報酬制度が労働市場の流動化を妨げている

質の高い流動的な労働市場を構築するのに、重要なのが労働者の能力評価です。

これまで日本の企業では、勤続年数や社内派閥などをもとに社員の昇格、昇給を決めることが多く、労働者がどのような能力とスキルを持っており、どのような成果を上げているかをしっかりと見てこない傾向がありました。つまり、労働の価値をその成果で評価してきませんでした。

しかし、今後は労働内容と質を公正に評価することが求められます。海外では、担当業務や各部門で目標を設定し、労働者を客観的に絶対評価する動きが強まっています。

適切かつ公平な評価基準や項目を備えた人事評価制度により、労働者の理解と納得、そして努力を引き出す評価が求められています。客観的に透明性を持った評価が昇進や昇給につながれば、労働者のエンゲージメントは高まり、評価制度への信頼も増すと考えられます。

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公正に労働者の評価がなされるようになれば、テレワークも活用しやすくなると考えられます。パーソル総合研究所が実施した調査によると、労働者の多くが、テレワーク時に、上司から公平・公正に評価してもらえるのか、成長できる仕事を割り振ってもらえるかなど、会社の評価・キャリアへの不安を感じる労働者が多いことが明らかとなっています。労働内容と質を公正に評価できる人事評価制度を整備することで、労働者のこうした不安を払しょくし、テレワーク業務を進めやすくなると考えられます。

また、賃金も年功賃金ではなく、労働成果に応じた体系にする必要があります。日本企業で一般的な年功序列型の賃金体系では、労働者の生産性と賃金が一致しません。勤続年数が長くなると、賃金に見合うほど生産性が上がらなくなるため、企業は高齢者を雇うインセンティブを持たず、高齢化が進む日本では大きな問題です。

世界では成果に基づく報酬制度がスタンダード

労働成果に見合う賃金体系ならば、企業は年齢にかかわらず労働者を雇うインセンティブを持ち、結果としてすべての世代が雇用機会に恵まれます。特に、高齢者人材の活用は単に日本経済の活力を維持・発展させるだけでなく、社会保障費の抑制など国の財政問題を改善することにもつながります。また、生産プロセスにおいて、経験や技能、世代が異なる人々が補完することになるので、経済成長にもプラスの影響を与えると考えられます。

労働成果に基づく報酬は労働者の生産性を高める可能性も指摘されています。『人事と組織の経済学』の著者として知られるスタンフォード大学のエドワード・ラジア教授の研究は、成果に基づく給与が労働者の勤労意欲を高めることで、企業の生産性を大きく上昇させることをアメリカのデータを用いて示しています。

また、ドイツの労働経済研究機関IZAの研究報告でも、その効果は賃金設計に依存するものの、成果に基づく給与は生産性を高める効果があるとしています。労働時間をベースとした報酬システムは国際的にみても、決して一般的ではありません。例えば、アメリカではホワイトカラーを労働時間規制の適用から外す制度「ホワイトカラーエグゼンプション」が普及しています。報酬は労働時間ではなく、成果に基づく年俸制です。グローバル化が進む中、優秀な人材の確保は海外企業との競争になることが予想されます。海外ではスタンダードな成果に基づく賃金体系を整えることが喫緊の課題です。