試食会では「おいしい」しか言わない芸能人たち

それに加えて、焼肉店の壁や床となる内装の張替えが、一般的なお店よりも高くつく。

肉が美味しく焼けたジューシーな油と香ばしい煙は、客席からもれてしまう。そのために排煙工事は当然であるが、かつオイル・ミスト(空気中に浮遊する微粒子状の油)や、その油汚れが壁や床、シートにしみ込み残らないように、水拭きだけで汚れが落ちるコーティング素材など、機能性ある内装材を選択することとなる。

通常の飲食店であれば、壁や床材などの内装工事は、坪単価で約30万円前後が相場になる。そこに耐久性がある内装材にすれば、さらに坪単価は10万円以上の上乗せして高くなってしまう。

焼肉店は他の飲食店と比較して、初期投資でかかる費用や原価率が高く、有名焼肉チェーンや付加価値ある他ジャンルのライバル店、例えば、寿司屋などとの競争にさらされる。飲食店のなかでも、ハイ・リスク、ハイ・リターンの典型的なパターンといえよう。

これだけの投資をしても、経営に熱を入れる芸能人は少ない。試食会で「おいしい」という連呼しかしない芸能人もいる。それでもプロデュースしたことになる。ひどいもので、自分の名前が入っている店舗がどこにあるのかもわからないアイドルもいた。なかにはオープン日だけはテープ・カットで顔を出し、その後は一切の来店がないこともある。実際にはオーナーではなく、名義貸しだったかもしれない。

閉店に追い込まれる理由は「人」

メディアには飲食店のオーナーになったりプロデュースしたことを発表しているが、その後の経緯を見ると実体を伴わないことも多い。

たとえ一時的に成功したとしても、何年も継続してうまくいく保証はない。ブームとは、必ず終焉を迎えるものだ。長く続けるには、絶えず変革を遂げないといけない。最初は人気店でも、話題性に飛びついたお客さまが一巡するとリピートすることなく閑古鳥が鳴くお店は多々ありえるものだ。

閉店に追い込まれる理由は、最終的にはやはり「人」に尽きる。まずは高級店になればなるほど、メニュー開発で差別化をはかるべく焼肉業界専門の調理人、料理長がいないと難しい。

次に芸能人オーナーが足しげく各テーブルをまわり、お客さまと会話を楽しんで喜ばせているのかが問われる。ところが最初だけは顔を出していても、だんだんと足が遠のき、誰が経営しているかわからない状態では、わざわざ行く価値も薄れてしまう。

芸能人オーナー自体が客寄せパンダであり、そのパンダがいることが最大の来店理由であることが、アタマではわかっていても実行が伴わなくなるのだ。もしも上野動物園にパンダを目的に見に行って、いなかったら悲しむであろう。その気持ちを想像することすらできなくなってしまう。