折しも、欧州連合(EU)の執行部局である欧州委員会は2月2日、天然ガスと原子力を「グリーン化」に適うエネルギーとして認める最終案を公表したばかりだ。ヨーロッパにとって最も安価な天然ガスは、すでにパイプラインが張り巡らされているロシア産に他ならないという事実がある。禁輸措置など、簡単には取り得ない。
エネルギー価格上昇、米国の利上げ、株安の悪循環が待っている
そうは言っても、経済の理屈を政治が凌駕することはよくあることだ。
ヨーロッパの天然ガスの需給バランスが政治的な要因で崩れたとき、ヨーロッパ発のエネルギー危機がグローバルなショックとなって金融市場を駆け巡ることになる。世界同時株安の様相を呈するだけではなく、米ドルや日本円といった低リスク通貨に上昇圧力がかかる。
より深刻にとらえるべきは、エネルギー価格の急騰でインフレが加速することだ。そしてそのことが、米国の利上げを加速させるリスクは看過しがたい。連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長がタカ派志向を強めている中で、エネルギー価格の上昇でインフレの加速に弾みが付けば、利上げのテンポを上げてくる展開が予想される。
通常、エネルギーや生鮮食品などは価格の変動が激しいため、その影響を除いた物価指数(コア物価指数)で物価や景気の実勢を評価する。しかしながら、物価指標の中からエネルギー価格の影響を完全に取り除くことは実態として不可能であり、コア物価指数もまた限定的ではあるとはいえ、エネルギー価格の影響を受けてしまうものだ。
それにタカ派志向を強めるパウエル議長が、そうした「コア物価」の発想でインフレの加速を容認するとは考えにくい。そうは言っても、負の供給ショックに伴うインフレの加速を需要の抑制で乗り切ろうとすることは、景気に急ブレーキをかけることと同じ意味だ。マーケット的には、この展開が最も嫌気されるストーリーではないだろうか。
日本への影響の点でいえば、ガス価格の高騰の影響は既に免れないところだ。ウクライナ有事が生じた場合、さらにガス価格の高騰を通じてエネルギー価格全般が高くなる。間違いなく株は急落を免れないわけだが、ここで問われてくるのが円高の度合いになる。どれだけ円高が進むかが、日本経済に対する信認のバロメーターになる。