「幸せそうに見えるかもしれないが、苦しい」

私が配信しているYouTubeチャンネル、『大愚和尚の一問一答』にも、企業経営者、プロスポーツ選手、アイドル、歌手、芸人の方々から「周囲には幸せそうに見えているかもしれないけれど、実際は苦しくて仕方ない。でも、死にたくても死ねない」などと相談が届くことがあります。

どうやら「お金持ちになること」が幸福への道だと信じ、物やお金に高い優先順位をつけた結果が、私たちに真の「幸福」をもたらすとは、限らないのです。

ブッダが29歳の時に出家した理由

今から2600年ほど前のインドに、そのことに気づき、生き方の転換を図った人がいます。お釈迦さまです。

お釈迦さまは、釈迦国と呼ばれた、北インドの王国の王子でした。幼き頃に母を亡くしたお釈迦さまは、父、シュッドーダナの寵愛を一身に受けて育ち、何不自由ない、裕福な少青年期を過ごします。

ところが、地位や名誉や財宝が幸福をもたらすわけではないことを体感して、29歳の時に突然、出家してしまいます。

城を離れたお釈迦さまは、修行を重ね、35歳でついに悟りを得てブッダ(目覚めた人)となります。その後、80歳でお亡くなりになるまでの間、各地を旅しながら人々に教えを説かれたのでした。

お釈迦さまの晩年のエピソードに、私たちがものごとを選択する際に参考にしたい重要な教えがあります。

湖、仏教と深い森の反射で僧侶のハイキング
写真=iStock.com/Tzido
※写真はイメージです

弟子が「何を頼りに生きればよいのか」と尋ねると…

旅の途中、お釈迦さまが大病を患らったときのことです。師の最期が近いことを悟った弟子が、お釈迦さまに次のように尋ねました。

「お釈迦さま亡き後、私たちは何を頼りに生きていったらいいのでしょうか」

不安がる弟子に対して、お釈迦さまは次のように答えます。

「自分自身をしゅうとし、自分自身を拠りどころとして生きよ。それ以外のものを拠り所としてはならない。法(お釈迦さまの教えであり、この世の真のあり方)をしゅうとし、法を拠り所として生きよ。それ以外のものを拠り所としてはならない」

洲とは、川に流されている人が這い上がれる、頼りとなるしまのことです。

法(お釈迦さまの教え)とは、お釈迦さまの考えや意見ではありません。

「この世がどう動いているのか」「私たちの心はどのように苦しみを生み出すのか」といった、この世の真実の姿のことです。

つまりお釈迦さまは、

「この世の正しいあり方をよく見極めて、受け入れなさい。そして、その世界観の上に、自分自身の努力をもって、生きる道を切り開きなさい」と説かれたのです。