欧米やロシアも清の時代に侵略して植民地化を進めたのに、現在は日本だけが中国からきついことを言われる。日本の外交が下手な結果だ。

明治以降の100年を除けば、日本は中国とうまく付き合ってきた。朝鮮半島の国には、5世紀頃に任那日本府を置くなど、対等かそれ以上の態度で接してきた。しかし中国に対しては違う。中国のように尊大な覇権主義国は、弱腰な相手だけを仲間として認める。日本は弱腰に見せて、大国の中国から最先端の技術や文化を学び、国家をつくってきたのだ。

遣隋使、遣唐使のようにエリートの留学先は中国だった。僧侶は中国で勉強してくると、偉い僧正になれた。中国帰りが朝廷や仏教界でのさばり、留学していない者たちは素直に従った。

中国が最先端の大国だったことは、治水の技術を見てもわかる。治水は為政者の重要な仕事であり、中国の皇帝たちは神経質に思えるほど熱心に取り組んだ。

例えば、成都市の近くにある江堰こうえんは、紀元前3世紀に原型ができた水利施設で、世界遺産にも登録されている。洪水から町を守るため、増水すると山の運河を通って盆地へ流れる仕掛けだ。

私は現地を視察して感動した。日本でいえば弥生時代に、腰が抜けるほど高度なエンジニアリングがあった。二宮尊徳が酒匂さかわ川で、金原明善が天竜川で大規模な治水工事に成功する2000年以上も前のことだ。

日本は中国から先端技術や漢字などの文化を輸入し、政治や制度を学んで日本という素晴らしい国を築いてきた。常に弱腰外交だったからできたことだ。

このように歴史を紐解けば、「中国に気をつかった弱腰外交」という発言そのものが、帝国主義時代の傲慢な言い方だ。

米国に日本や台湾を守る余裕はない

中国への弱腰外交は、米国にとってはおもしろくない。しかし今後は、どう考えても中国の時代になるし、21世紀の米国は「何を考えているの?」と尋ねたいぐらい、まったく頼りにならない。

例えば、「台湾有事」が起きたら、バイデン大統領は本当に台湾を守るのか。中国は台湾をめぐってちょっかいを出しているが、いざ中国が台湾を本格的に攻撃したら、米軍は逃げ出すと私は見ている。

中国は、ロシアの「ツィルコン」に匹敵する極超音速ミサイルを開発している。このミサイル(東風17)を撃たれると台湾の防衛は非常に困難で、中長距離ミサイル(東風26)はグアムまで届く。射程内に米国の空母は入れなくなるだろう。

21年12月に、安倍晋三元首相は「台湾有事は日本の有事」と言ったが、具体的には沖縄だけではなく、横須賀の第7艦隊や横田基地も標的になる。つまり、首都圏が狙われるということだ。「尖閣せんかく諸島は日米安保の対象か」というレベルではないのだ。