「親の老後の面倒は自分が」親孝行な息子・娘を襲う自分の老後崩壊
今や要介護の原因の第1位でもある「認知症」。“なったら怖い病気”のランキングでも、がんや脳卒中、心筋梗塞に次いで挙げる人も多く、とくに女性は不安に感じているようだ。
そして、現役世代の子ども世代にとっても、もしも、親が認知症になった場合にどうなるのか、どうしたら良いか、施設や在宅で介護する場合、どれくらいの費用がかかるのかなど、気になることは多々ある。
子どもとして、「親の老後の面倒は自分がみるべき」と覚悟を決めている親孝行な息子さんや娘さんのお気持ちはお察しするし、立派なことだと思う。
しかし、それによって、自分たちの老後の計画が大きく狂ってしまうとしたらどうだろうか。おそらく、こんなはずではなかったと後悔するのではないか。
今回は、親孝行な子どもの想いが後悔になってしまわないためにも、認知症の親の介護が、子どもの老後に影響を与えてしまった事例を紹介したい。
認知症の母と身体の不自由な父のダブル介護が始まった!
東北地方に住む両親の介護のため、10年近く実家に通い続けたのは、都内のメーカーに勤務する田中浩一郎さん(仮名・63歳)だ。
介護のきっかけは、母(当時76歳)が趣味の山歩き中に転んで骨折したこと。その時に入院した病院で、認知症を発症していると告げられた。年齢的に仕方がないとは感じたが、リハビリ病院も含めて3カ月ほどの入院中、認知症がかなり進行してしまったのは想定外だった。
一方、同居している父(当時80歳)も、数年前に心臓バイパス手術を受けてから体力が著しく低下した。母とは逆に認知機能はしっかりしているものの、歩行も難しい状態で要介護3の認定を受けている。骨折するまでは母が、父の介護をしていたくらいだから、認知症となった母も一緒に在宅介護というのは難しい。
そこでAさんは、母が入所できる施設探しに奔走し、何とか退院前にグループホームを見つけて入所できた。
ところが、ほっとしたのもつかの間、認知症のためか、母は、他の同居者やスタッフとうまくコミュニケーションが取れない。
結局、1年も経たないうちに退所することになり、費用の安い特別養護老人ホームに入所できるまでの数年間は、老人保健施設や特別養護老人ホームのショートステイを利用しながら、なんとか在宅介護を続けたという。
その当時、50代の働き盛りだった浩一郎さんは、管理職として社内でいくつもプロジェクトを抱える責任ある立場。実家の細々とした用事は幸い近所に住む親せきがやってくれたが、まったくのお任せというわけにもいかない。それに、介護や医療に関する重要な意思決定の場面には、必ず立ち会わなければならなかった。
ひとりっ子の浩一郎さんは、小さい頃から、両親や周囲から「跡取り息子なんだから、親が何かあったらお前がしっかりするんだぞ」と言われて育ったという。多少の反発を覚えることもあったが、自分も人の親になってみれば無責任に放棄するわけにもいかず、仕方がないと腹をくくるしかなかった。