今でも増改築を続ける「国立民族学博物館」
【青木】大阪万博のほうは万国博美術館の施設が、国立国際美術館になりましたが、それも老朽化を理由に取り壊され、2004年に大阪の中之島に移転してしまいました。あれはもったいなかった。川崎清(1932~2018年)さんがつくった万国博美術館は茫漠としてとりつく島がない空間で、人を流す動線から割り出された、万博じゃないとできない、非常にユニークな空間でした。
【井上】パビリオンだから、ゆるされた企画じゃないかとは思います。
【青木】また、万博公園内には黒川紀章(1934~2007年)さんの……
【井上】国立民族学博物館がたっています。メタボリズム(1959年に黒川紀章、菊竹清訓ら日本の建築家・都市計画家らが起こした建築運動。原義は「新陳代謝」。転じて社会や人口の変動に合わせて成長する都市像・建築像を提唱した)の理念が、唯一現実化された例じゃないかと私は思います。今でも増改築しているんです。
【青木】ちゃんと新陳代謝をしているわけですか。また訪ねてみなくては。
中銀カプセルタワービルは「切断」されている
【井上】黒川さんの中銀カプセルタワービルは、固まったままじゃないですか。ご存じのように、このビルはさまざまな方向を向いたカプセルを組み合わせてできています。カプセルはコアシャフトにボルトでとめられていたため、住み手が自分の都合に合わせてこれを取り外し、たとえば冬場はスキー場へ持って行くこともできる。そんなコンセプトであれはできています。ところが、実際には住み手のだれ一人としてそんなことをしなかった。ボルトを外すためには鳶職の世話にならなければなりませんし、カプセルを取り外すにはクレーン車だって必要です。そうした作業を銀座8丁目で行うことが、行政に認められるとも思えません。
これは事実上、磯崎新(1931年~)さんの「切断」と一緒じゃないですか(「切断」は磯崎新が唱えた「プロセス・プランニング論」におけるキーワード。「プロセス・プランニング」とは経年変化を計画段階で想定して設計を行う方法論であり、そのプロセスが最後に「切断」されることにより、建築物として具現化されると唱えた)。
【青木】レガシーかどうかは時が判定することなんですね。