与えられたキャラを演じていると、それがだんだん身体になじんでくる。そうすると仲間うちでのやりとりが上手になる。僕はJR神戸線の住吉駅の近くに住んでいます。だから、灘中、灘高の生徒たちとよく駅で行き逢います。彼らの会話が耳に入る。もちろん何を話しているのか、中味まではわかりません。でも、わかることがある。それは受け答えが異常に速いということです。超高速コミュニケーションが展開している。卓球の世界選手権みたいなスピード感で言葉が行き交っている。
打てば響くという感じで。でも、そばでやりとりを聴いているうちに何となく僕は違和感を覚えてきた。言いよどむとか、言い直すとか、絶句するとか、質問を聞き返すとかいうことがほとんどないからです。ものすごい速度でパス回しをしているような感じです。でも、これを果たして「コミュニケーション」と呼んでよろしいのか。
期待されるリアクションをこなす会話は質が高いのか
この子たちは主観的にはたぶん「質の高いコミュニケーション」をしているつもりでいるんだと思います。でも、そういうことができるのは、参加者たちのキャラ設定があらかじめ決まっているからです。A君はこういうトピックについてはだいたいこういうコメントをする。それに対して、B君がツッコミを入れて、C君はそれをまぜっかえすと、D君が笑ってオチをつける……というふうにパスコースが決まっている。そういう下絵が書かれていないと、これほどのスピードは出せません。
でも、こういうやりとりが続いて、これしかコミュニケーションのスタイルが許されないとしたら、みんなずいぶんつらいだろうなと思ったんです。キャラが決まっていて、「こう振ったら、こう返す」ことが高い確率で予見できるからこそ、このスピードは確保されている。
ということは、期待されているリアクションと違うことを誰かがすると、そこでパスの流れが止まってしまう。たぶんそれはルール違反なんです。そういうことをすると「『らしくないこと』言うなよ」という否定的な査定が下される。