母のようになりたくないと思っていた自分も

うちには兄からの家庭内暴力もあり、私も母親も日常的に殴られていた。壁や扉、あらゆる家財道具が壊され、兄の支配は実家で今もなお続いている。母親に「一緒に逃げよう」と何度説得しても、母親は首を縦に振らなかった。私がうつとPTSDを発症し、希死念慮と闘っていることを知っても、母親は絶対に私を家から逃がそうとはしなかった。「私のほうがつらい。あんたを診察した医者はヤブだ。あんたが病気になるわけない。あんたはいいよね、逃げられるんだから」と母親に言われた日、私は自死しようと思い立つほどつらかった。

その後、実家から逃れ、会社員として働きながら一人暮らしをしていたが、数年後に体調が悪化して倒れてしまい、まともに働けない身体になった。転職をしたほうがいいこともわかっていたのに、病院に行かないと心と体が限界であることも頭ではわかっていたのに、私もまた長期的な目線で物事を考えることができず、「現状維持」しかできなかったのだ。貧すれば鈍する、とはまさにこのことだと今では思う。

「知らない人になら相談できる」と思う人々

問題だったのは、私も母親も知人女性も、全員が共通して「限界がくるまで誰にも助けを求めなかったこと」だと思っている。特に日本では、家庭の問題や経済的な困窮を第三者に知られることを「恥」だとする風潮がある。これまで相談を聞いた生活困窮者のほとんどが、誰にも相談できず、司法書士事務所に連絡をしてくるときでさえ「誰にも知られずに債務整理ができるかどうか」を過剰に不安がり、時にはかたくなに「債務整理の情報を教えてほしいだけで、金銭的には困っていない」と強調し続ける人も少なくない(実際はかなり困っているにもかかわらず)。

そういう人たちはとにかく「知人に知られたくない」と考えているため、もし周りに困窮していそうな人がいる場合は無理に事情を聞き出そうとせず、「もし今後困ることがあったら、無料で困りごとや相談を聞いてくれる電話相談窓口(※)があるから覚えておいてね」と伝えるほうが効果的である。

自立相談支援機関 相談窓口一覧(令和3年7月1日現在)

実際に「知り合いには絶対知られたくないが、知らない人になら相談できる」という相談者は多い。

恐ろしいのは、よほどの資産を持つ者でないかぎりは誰もが貧困の沼に落ちる可能性があるにも関わらず、「貧すれば鈍する」という状況や思考パターンが理解できず、批判したりバカにしたりする人のほうが圧倒的に多いことだと思う。限界の状態に達してからでないと、人はなかなか自分の心身と向き合うことができないように思う。

そうなる前に「困窮者の思考パターン」について少しでも知っておくことが、将来の自分を守るために必要不可欠なことではないか。

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