スポーツカーの設計は自動車業界に大きな利益をもたらす
さらに、スポーツカーを設計する過程はこの先の自動車業界に大きな利益をもたらす。なぜか。
クルマの三大基本性能は今も昔も「走る、曲がる、止まる」。スポーツカーは走行性能を高めるわけだから、当然、三大基本性能も高める必要がある。従って、この3要素を突き詰めたスポーツカーの開発プロセスをベースにすれば、性能の良い先進安全技術や自動運転技術を生み出しやすくなる。
具体的には、クルマの基礎設計がしっかりしていると、先進安全技術である衝突被害軽減ブレーキの性能が向上し、自動運転技術を支える車両制御性能も向上する。車体の反応速度が向上するため、最終的にブレーキ性能やハンドリング性能が良くなっていくからだ。しかも、スポーツカーをベースにすれば車両重量を軽く設計することもできる。
そうした側面から、厳しいコスト制約のなか3大基本性能を突き詰めた2台の開発プロセスで得られた知見は、迎えるべく自動車社会にとっても有益だ。279万9000円~(GR86)という性能からすればグッと抑えられた車両価格の実現も協業という側面から得られた経済的効果だ。
電動化しなかったのは、現時点では評価すべき判断
では、電動化に対してスポーツカーはどう対応するのがスマートなのか。
ご存知のようにクルマの電動化には電気自動車(EV)だけでなく、ハイブリッドカー(HV)、燃料電池車(FCV)も含まれる。エンジンスターターを兼ねる小さなアシストモーターを備えたマイルドハイブリッド(MHV)も電動化車両だ。
MHVが搭載するのは小さなモーター(&極小容量の二次バッテリー)だから燃費数値の向上は5~10%程度と少ない。一方、MHV化により車両価格は15~20万円ほど上昇し、車両重量も増える。効果は小さくコストや重量も上がるが、MHVも電動化だから現時点では時流に乗っていることになる。
GR86/BRZは、そのMHVですらない。しかし筆者は、現時点では評価すべき判断だと考える。なぜか。
スポーツカーの基本性能を突き詰めることを命題に、車体の剛性アップを含めた走行性能向上と、それに相反する車両の軽量化の両立を目標として掲げていたからだ。売価である車両価格を上げられるのであれば車体剛性向上と軽量化、さらにはMHV化とすべてをかなえることが可能だったかもしれない。ただ、それは2台が目指した姿ではないのだ。