GR86は従来型の燃費数値を10%程度上回った

加えて、軽く、性能の良いスポーツカーであれば素材(鉄に始まる車体の構成材)の使用量が減らせ、おまけにエンジンやトランスミッションなどパワートレーンの効率を高めれば燃費数値まで良くなることからLCA観点での温室効果ガス削減が望める。事実、筆者による今回の試乗シーンに限っていえばGR86は従来型86の燃費数値を10%程度上回っている。

つまり電動化で目指すカーボンニュートラル化に対して、軽くて性能の良いスポーツカーも一定の効果は望めるのだ。

では、2台では軽量化のために何を行ったのか。まずは新型となって重くなった部分を考える。

前述したように排気量を400cc大きくした2.4lエンジンは従来型から9kg増えた。さらに、衝突時の衝撃吸収性能などを向上させるため30kg増、走行性能のうちハンドリング性能向上のため14kg増、そのほか装備関連などで22kg増。求める性能から計算すると、新型は締めて75kgの増加となることがわかった。

さて、ここからがエンジニアの腕の見せ所だ。まず、クルマの仕様や性能を見直して27kg減。設計合理化で20kg減。材料置換で11kg減。質量低減で10kg減。高張力鋼板の採用拡大で6kg減。こうした新しい解析技術や設計手法を導入し74kg軽量化を果たした。前輪のスタビライザー(走行中のボディの傾きを抑える部品)では中空化で500g軽くするなど、まさにg単位での軽量化が図られた。

性能を大幅に向上させつつスポーツカー向けの軽量化技術によって車両増加はほとんどなし。ここで得られた知見はとてつもなく大きい。開発時間とコストに大きな制約があるなか知恵を絞り、軽くしながら剛性を強化して、さらに走行性能も高めた。

EV車両重量の軽量化にトヨタが出した「解」

将来的にEVは車両重量の軽量化が課題になる。重量の30%以上を二次バッテリーが占めるなか、どのような手段があるのか見ものだが、トヨタはすでに一つの解を提示している。

2021年12月14日、トヨタ主催の「バッテリーEV戦略に関する説明会」のなかで、「技術革新により電費数値(内燃機関の燃費数値に相当)を向上させることで搭載バッテリー容量が減らせる」という主旨の発言があった。仮に30%電費を伸ばせれば、満充電1回あたりの走行可能距離をそのままに、相応分の二次バッテリー搭載量を減らせるから軽量化に直結する。

そうしたなかGR86とBRZでは、異なる企業風土であるトヨタ/スバルの協業によって、ひとつの答えを導き出すプロセスを2代にわたって踏んだ。ここでは内燃機関車でスポーツカーとしての軽量化を達成した。

さらにトヨタは「bZ4X」、スバルは「ソルテラ」としてEVでも協業も成し遂げた。協業EV第一弾は2022年央に発売される。ここではGR86/BRZで培った協業メリットのほか、スバルの得意分野である4輪駆動/AWD技術を新たな魅力として掲げ、両社で取り組んできた。

電動化に踊らされてしまった感のある2021年だったが、その裏で着実にカーボンニュートラル化へのさまざまなアプローチが具現化した。水素を内燃機関で燃やす取り組みもそのひとつ。アイデアはまだまだ生まれる。現実的なたくさんの解を2022年には期待したい。

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