楽天が外国人採用を積極的に行うのもそのためだ。2010年も1月1日付でインド出身者7人を新卒で採用した。入社式で驚いたのは、09年10月に内定して3カ月しか経っていないのに、日本語が流暢だったことだ。日本では中学から大学まで延べ3000時間も英語を勉強しても話せない。インドは多言語社会で、インド人は元来、言語習熟力が高いといわれ、彼らも内定前から日本語の勉強をしてはいた。それにしても、学ぶことへの真剣さの度合いが違いすぎる。気合がストレートに伝わってくる。
楽天が出資しているアメリカのベンチャー企業もそうだ。働いている若い社員たちは本当にチャレンジングでエネルギーがギラギラとほとばしり、近づくとやけどしそうな感じすら覚える。
それに比べて日本はどうか。「このままでは危ない」と気づいていない。例えば、次世代スパコンの研究開発について「世界一になる理由は何かあるのか。2位ではダメなのか」と真顔で議論されている。世界一を目指さなければ、2位にもなれない。初めから2位を目指したら間違いなく圏外だ。ナンバーワンを目指すのは当たり前ではないか。
09年の大晦日、NHK紅白歌合戦でトリの一つ前に歌われた『世界に一つだけの花』は、「ナンバーワンにならなくてもいい」「もともと特別なオンリーワン」であればいいと謳う。ニッチをねらった差別性のあるオンリーワンだったらいい。けれど、“劣るオンリーワン”だったらどうなるか。競争優位性のない国も企業も悲惨な結末を迎える。世界で日本だけが取り残される日も遠くない。
そう考えざるをえないほど、ここ数年、若い世代の間で急速に保守化と安全志向が高まっている。世界へ出ていこうとする若い世代の力が5年後、10年後の日本にとって大切なのに、逆に自分たちの将来へ漠とした不安を抱えたまま、内向きになり、“セミ鎖国”のようになっていると感じるのは、ぼくだけだろうか。
グローバル化が進み、激しい変化の波が押し寄せる時代には“安全志向”が最も安全ではない。誰もが安全志向に陥った船は二度と港に帰れない。そうなる前に何より必要なのがチェンジだ。新しい自分に向けて踏み出さなければならない。それにはどうすればいいのか。
まずは自分が目指す大きな目標を描くことだ。大きな目標はたいてい抽象的であるため、そのままでは目標を立てても実現できずに終わってしまう。そこで、抽象的な目標を具体的な目標へとブレークダウンしていき、実際の行動に結びつくようにする。
例えば、アメリカの第35代大統領ジョン・F・ケネディの偉大さは、宇宙開発という抽象的な目標だけでなく、月に人を送るという具体的な目標を掲げたことだった。ぼくも楽天を13年前に創業したとき、「世界一のインターネット・サービス企業を目指す」という目標を掲げた。それだけでは画餅に終わる。そこで、その目標に至る過程として、年間の流通総額が30億円のときに1兆円を目標に据えるなど、一見途方もなく見えても、全力で取り組めば到達が不可能ではない目標を掲げてきた。