「ひと月6万円以上も多く払わなければならなくなった」

この改定を、介護現場をよく知るケアマネジャーはどう見ているのでしょうか。

「実際に負担が増えたのは2021年の8月からです。1年前に制度見直しが決まっていたんですが、利用者さんはそういう情報に疎いですから、いきなり補助を打ち切られたような気がするわけです。食費に加え居住費も自己負担になったケースでは、ひと月6万円余りも多く払わなければならなくなった方もいます。突然、これほどの負担増になれば確かにつらい。『ひどくないですか?』という声が私の耳にも届いています」

とは、ケアマネ歴15年の男性Hさん。続けて、このように語ります。

「ただし、第三者的に見れば見解は異なると思います。たとえば預貯金が800万円ある施設入所者がいたとします。これまでの規定では、この方も補足給付の対象で居住費と食費が安く抑えられていた。年金などの収入にもよりますが、その恩恵によって預貯金をそれほど減らすことなくキープできたはずです。でも、世間的には800万円も持っている人が高齢者施設の介護で大きな恩恵を受けるのはいかがなものかと受け止められるでしょう。厚労省の考え方もそれに近いと思います」

入所者本人にとって、それは老後のためと思ってコツコツ貯めてきた大事なお金でしょう。病気になって思わぬ医療費がかかるかもしれませんし、死期が近づいていることも頭にある。葬儀代などで家族に迷惑をかけたくない、少しは遺産を残したいという思いもあるはずです。ただ、それにしたって「800万円」は妥当か? と思う人も多いかもしれません。

書類の上をさまよう高齢者の手
写真=iStock.com/Dobrila Vignjevic
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預貯金額の要件で今回の改正を見ると、1000万円以下だったのが、年金などの収入額によって650万円以下、550万円以下、500万円以下の3段階になりました。国の判断としては、1000万円近いお金を持っている人に補助する必要はない、500万~650万円あれば、そうした費用はなんとかまかなえるはずで、その額を下回る状況になった場合は補助しますよ、という改正だったというわけです。

「この問題には家族の意向も絡んできます。親などが高齢者施設に入所している場合、居住費・食費の支払いを含め資金管理は家族がしていることがほとんどです。入所者本人と同様、亡くなった時の出費が頭に浮かぶわけです。加えて家などの資産がある場合は相続税の心配もある。ただ、日頃、そういうお金のことはあまり考えたくないもの。世間的な相場はなんとなくわかっていても具体的にいくらかかるかシミュレーションなどしない。その時に備えて、親の預貯金は手をつけたくないと思うわけです。また、心のうちには、できるだけ残して、もらえる遺産額は減らしたくないという意識もあるはずです」