知識も経験も少ない後輩からのいじめ

同僚の中から、いじめの加害者となるものも現れた。Hさんの後に就職し、主任に昇格していた後輩の職員だ。この後輩は、支配人に意見を言うHさんに対して、「そんなこと言ったらだめじゃない。支配人の方針に従わないと」と、事あるごとに支配人に加勢してHさんに追い討ちをかけた。

この後輩は問題人物で、オムツの下に敷くパッドの使い方も杜撰ずさんだった。普通、パッドを一枚ずつ使って汚れたらお尻を綺麗にして交換するところ、あらかじめ2枚を重ねてお尻にあてておき、汚れたら1枚を引き抜くという「効率的」な方法を編み出した。お尻が痛んで赤くなってしまうため、入居者の中には、この後輩が来ると部屋の鍵を閉めてしまう人もいた。

実はこの人物は、介護福祉士の資格を取得してまだ1年目の新人にすぎず、知識も経験も圧倒的に少ない。Hさんは介護福祉士の資格を10年以上前に取得しており、知識でも経験でも上回っていた。支配人に追従することで、主任の役職に取り立てられたことは明らかだった。「Hさんが愚痴ばかり言ってる」という嘘をばらまいていたのも、この主任のようだった。

職員に対する仕打ちを毎日見ていた入居者たちからは、自分たちも被害者であるにもかかわらず、Hさんたち職員がかわいそうだと同情されるまでになっていた。支配人に怒鳴り込んでくれた入居者もいた。

ところが支配人は、入居者からの抗議を受けて改善するどころか、「あなたたちが悪いからこうなる。あなたたちが入居者を焚きつけた」などと、Hさんたちを非難する始末だった。

職員たちで嘆願書を出しても法人は無視

かなり悪質な事件だが、これだけだと、単に悪質な支配人がいたという「個人の問題」で終わってしまうかもしれない。しかし、本質的な問題は、法人がこの全てを黙認していたということにある。

Hさんは最後の望みをかけて、支配人を飛び越して、法人の代表宛てに嘆願書を書き、不正やいじめの数々を「直訴」した。ほかの職員たちも続いた。だが、法人からは何の返事もなく、対策も一切行われなかった。

坂倉昇平『大人のいじめ』(講談社現代新書)
坂倉昇平『大人のいじめ』(講談社現代新書)

介護の質や職員の労働条件の改善、職場からいじめをなくすことよりも、せっかく黒字に転換したいまの状況を続けることの方が重要で、その功労者である支配人のストレス発散や、良心的職員への攻撃は容認すると判断したのだ。

Hさんはじんましんを発症してしまい、退職したいから話をしたいと支配人に言うと、「辞めるのに電話なんて失礼」「忙しいから今日は話せない」とドタキャンを繰り返し、なかなか辞めさせようとすらしなかった。Hさんは精神疾患を発症。不眠症に陥り、常に無気力を感じるようになってしまった。

主任は、「仕事がまだあるのに辞めるのは失礼だ」と、この期に及んでなおHさんを批判した。Hさんは、入居者たちから「辞めないで」と言われており、あまりの申し訳なさから、最後まで入居者たちに退職を言い出すことができなかった。

Hさんの退職日、支配人は「体に気をつけてね」と、それまで見せたこともない晴れ晴れとした笑顔を見せた。

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