ストレスを発散したい支配人の標的に

施設内で、こうした「改革」と並行して勃発したのが「いじめ」だった。

支配人は、ストレスの発散のため、職員に対して子どもじみた嫌味をネチネチと言った。介護の資格を持たず、補助的な業務のみを担当していた女性職員は、「あなた資格持ってないの」と馬鹿にされ、体力がないのに力仕事を押し付けられた。

特に標的となったのがHさんだった。Hさんは、こうした施設内の問題に黙っていられず、支配人に意見していたため狙われたのだ。

孤立のイメージ
写真=iStock.com/Seiya Tabuchi
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ある暑い夏の日、Hさんが夜勤明けで疲弊していたとき、支配人が施設の周りの草刈りを全員でやってもらうと言い出した。ただでさえオーバーワークなのにさらに業務を増やす支配人に対して、Hさんは「みんなでやるということは、支配人もやってくださるんですよね」と返した。引くに引けなくなった支配人は草刈りに参加したが、この「事件」が決定打となり、Hさんはますます攻撃を受けるようになった。

支配人はことあるごとに、「あなたは私にいろいろ言うけど、あなたこそちゃんと仕事をできていないじゃない」と揚げ足を取るようになった。数カ月に一度、誰でもやってしまうようなタイムカードの打刻ミスがあっただけで、「あなた年中ね」などと嫌味を言われた。

Hさんと一緒に抗議する同僚はいなかった

支配人の嫌がらせは陰湿かつ多岐にわたり、「あなたが腰が痛いと愚痴ばかりこぼしていると、職員みんなから不満を聞いた」「退勤時間前に帰っているとみんなに聞いた」などと、Hさんに文句をつけた。Hさんが周りの人に聞いても、「そんなこと支配人に言うわけがないですよ」と困惑するばかりだった。

Hさんが特にショックを受けたのが、夜勤明けに、痛めた腰を屈めて立っていたときのことだ。通りかかった支配人が、Hさんを指差して、「Hさんの腰が曲がってる!」と職員たちの前で嘲り、大声でゲラゲラ笑い始めたのだ。

Hさんは支配人に「“大丈夫?”とか言えないんですか」と一矢報いた。職場の同僚は誰も支配人に同調して笑ってはいなかったが、Hさんと一緒に抗議してくれるわけでもなかった。

すでに支配人に従順な職員か、生活のためにどうしてもここで働くしかない職員しか、施設には残っていなかったのだ。