ですが、実際には意志とはまったく関係ありません。脳がひたすら快感を求めた結果なのです。極端な話をしますと、麻薬を使った際の快感と全く同じ快感です。

ストレスが多い人に食べ過ぎの傾向が見られるのも、苦しい、つらい、という思いを抱いたときに、いちばん手軽に自分を慰められるのが、「食べる」ことに伴って感じられる快感だからです。

この報酬系食欲を制御する部位は、脳の腹側被蓋野(VTA)ということから始まり、大脳基底核の線条体合流部にある「側坐核」という場所にいたる神経の道筋のことを指します。報酬系回路や快感回路とも呼ばれます。

そして報酬系食欲を含めた報酬系回路の活性化こそが、人を太らせる元凶なのです。

食事をしている人
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食欲は意志の力では決してコントロールできない

ならば、この報酬系回路さえコントロールできればやせられるじゃないか、と言いたいところですが、事はそんなに簡単ではありません。

報酬系回路は、食欲だけでなく、快感を伴うあらゆる行動に関与しています。そして、この「快感」というものは、みなさんが思っている以上に動物を支配する力を持っています。

ある恐ろしい実験があります。マウスの脳の報酬系回路に電極を埋め込み、それをマウスが前足で押すことのできるレバーにつなぎます。つまり、マウスは前足でこのレバーを押すことで、自らの力で報酬系回路を活性化して快感を覚えられるようになる仕組みです。

するとどうなったと思いますか? マウスはすべてを忘れてレバーを押し続けるようになってしまったのです。食事も水もとらずに押し続け、そのまま放っておいたら餓死寸前の状態に陥りました。

それはマウスだったから、と考える方もいるかもしれません。しかし、同様の現象は人間においても確認されています。

1970年代から80年代にかけて、電気刺激によって精神疾患の患者さんを治す試みが行われました。その際に、報酬系回路に電極が置かれてしまったことがあります。

結果はやはりすべてを忘れて電気刺激を求めるようになった、と報告されています。ひどい場合には、電気刺激のスイッチを押しすぎて指に潰瘍ができるほどだったそうです。

そして報酬系回路は食欲だけでなく、やっかいなことに、実は恋をしたときにも活性化します。恋をしたときと同じメカニズムが報酬系の食欲では働いているわけです。

意志の力で恋を止めることができません。