「尾身会長の発言にサイエンスの裏打ちがあるか不安なんです」

田村大臣は一息つくと、「ワクチンのインド型への効果は、80%くらいで発症阻止と聞いていますが、尾身先生は、この間いきなり、『ワクチンで感染阻止ができる』って、ワクチン効果について言い出した。あれはダメです。ワクチンは発症阻止、重症化阻止までで、感染阻止についてはろくにデータがない。なんで急に言い出したのか?」

「大臣、それは五輪がらみでしょう。選手も関係者もワクチンを接種して入ってくるから安心ですよ、と国民に言いたかったのかも。もしくはバブル方式だから、国内に感染伝播は起きませんよとか、そういうことではないでしょうか?

でも、『ワクチンで感染阻止』は危ういです。2回接種後の2週間後とか、抗体がピークのときや、ごく高いうちには感染阻止もできるかもしれませんが、ワクチン免疫は次第に下がっていきます。ワクチンは発症、重症化阻止、死亡する割合を下げるまで、です。過大評価はするべきじゃありません。尾身先生は言い過ぎです。

すぐにワクチン接種者に感染者が出てボロが出ます。それに、そもそも変異ウイルスでのワクチン効果のデータが不足しています。ワクチン免疫の持続期間も詳細は不明、今のワクチン政策は賭けです。尾身先生のおっしゃっていることに、サイエンスの裏打ちが本当にあるのか不安なんです」

新型コロナワクチンをシリンジから注射器に
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尾身会長の提言が「自主的な研究」と呼ばれたワケ

「僕も不安です。で、例の尾身先生の提言の話がありますね。有志でまとめているという提言」と言うと、大臣は大きくため息をついた。

「尾身先生、押谷仁先生、岡部信彦先生とおたく(感染研)の所長で『有志』といって提言を出されても、取り扱いに困るんです。本当は、分科会としての発表へ落とし込みしてもらいたい。単なる『有志』で、クレジットなしでは、本当に困る。それは西村さん(西村康稔経済再生担当大臣)もわかっている。

西村さんと尾身先生は毎日、電話で話しているから、西村さんは、半分くらいはクレジットをくれると思う。半分、0.5はクレジットをくれる」

私は意味が分からず、「0.5って何でしょう?」と聞き返した。

「『分科会有志』なら半分ってことです。ただの『有志』よりはマシ。分科会有志で出して、分科会じゃない、という言い逃れもできる」

世間は「尾身の乱」と呼び、良心の叫びとして、尾身氏らが五輪に対する提言を準備していることを英雄視しているのに対して、田村大臣はそれを「自主的な研究」と呼んだことで強いバッシングを受けた。それはこの電話の1週間ほど前のことだったが、そもそもの発言の一部が切り取られて報じられ、独り歩きした誤解だった。

大臣は「参考にするものは取り入れていくが、自主的な研究の発表だと受け止める」と発言したのだ。厚労大臣の立場としては、何のクレジットもつかない有志の報告に対しては、“自主的な研究”としか呼びようがない。そもそも“自主的な研究”とは、尾身氏自身の口から出たものだと私は聞いた。