「大臣、五輪はどうするのですか」

その日の本番終わり、車中から田村大臣に電話を入れた。 

「大臣、五輪はどうするのですか」「五輪はやる。観客も入れます。そのときの感染流行状況にもよるでしょうけれど、野球やサッカーなど他のスポーツのスタジアムと同じ扱いになるだろうと思います。ダブルスタンダードはよくないですから。

五輪は全国から観客が来るって話もありますけど、チケットの購入状況を見ると、首都圏以外は2割程度なんです。首都圏中心だから、そんなに人の移動による影響は出ないと思うんですよ。総理が帰って来てから話をするんですが、たぶん一定ルールで観客を入れるって方向でいくと思います」

2020東京オリンピックの旗が掲げられた都庁
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そうだ、菅総理は今、G7でイギリスだ。大臣は続ける。

「ただ、感染が増えたとなったら、五輪の最中でもサーキットブレーカー(遮断器)みたいに対応する、それを決めておきたい。そのサーキットブレーカーの中身を尾身先生が言うのだと思います。

それと、五輪の最中の国民の飲み歩きだとか、高揚感とか、それが人流につながるのが心配なんです。選手や関係者を外部と遮断してバブルにするって言っても、ウイルスは入ってくるでしょうし」

そう、入ってくるのですよ、ウイルスが……。それが厄介な変異ウイルスだったら嫌なんです、大臣もわかっておられますね……。

分科会では厳しいことを言わない尾身会長

その頃、総理はG7で各国首脳に五輪開催の確約を取り付けていた。つまりは、五輪開催は既定路線だ。その路線をどう乗り切るかに苦闘する田村大臣の厳しい状況が、言葉の端々からうかがえた。

尾身氏が提言を出す用意をしているというのは、報道で漏れ聞いていた。その中身はサーキットブレーカーのことか、と理解した。ただ、走り出した五輪を開催中に中止できるサーキットブレーカーを、分科会の提言として尾身氏が出すだろうか? そんな指標を出すくらいなら、ずっと前に開催そのものを延期する提言を出していたのではないか。私は訝しんだ。

田村大臣が、尾身氏のアドバイザリーボードでの「厳しい」発言を私に告げたのは、このときであった。

「尾身先生らは、厚労省のアドバイザリーボードでは厳しいことを言うんです。でも厚労省で言っても、分科会じゃあ全然言わない。だから、内閣官房の方には意見がいかないので、『こっちは聞いてません』ってなる。しかも、アドバイザリーボードでは、大事なところは尾身先生が『今からは記録しないで』と言ってから始める。

そのアドバイザリーボードで、西浦先生が『このままだと8月にもう一回緊急事態宣言を』って数字を出してきた。これは大阪のペースでの感染流行、1.7(実効再生産数)で計算している最悪のパターンの場合です。

で、別の研究者は、実効再生産数をもっと低く仮定して出してきた。これは楽観論ですね。両極端のシミュレーションが二つ出てきたけど、とにかくヤバいよってデータが出てきた訳です」