日大には教育機関としての自覚や責任感がない
日本大学の前理事長、田中英寿容疑者(75)が東京地検特捜部に所得税法違反(脱税)容疑で逮捕された事件で、日大は12月10日、記者会見を開いた。日大は9月8日に、東京地検特捜部の家宅捜査を受けている。ところが記者会見を開いたのは、その3カ月後だった。
家宅捜索で田中容疑者の自宅からは1億円を超える現金が見つかった。税務申告せずに隠していた資金、いわゆる脱税の「たまり」とみられている。
日大は16学部87学科、在校生7万人の総合大学である。3年前には創立130周年を迎え、卒業生は118万人を超える。私学助成金も年間90億円と半端な額ではない。その意味で日本トップクラスの巨大な教育機関である。
それにもかかわらず、検察の家宅捜索を受けても、その1カ月後に元理事らが背任容疑で逮捕されても、記者会見を開こうとはしなかった。
日大には教育機関としての自覚や責任感がない。これがいまの日大の体質であり、ここに今回の日大事件の本質が透けて見える。
田中容疑者は「事件は検察の勇み足」と学内に説明
田中容疑者の後任として理事長を兼務した加藤直人学長は、記者会見で一連の事件を謝罪し、「(田中前理事長と)永久に決別し、影響力を排除する。(彼が)日大の業務に携わることを許さない」と語った。そのうえで、大学組織の刷新に向け、外部の有識者会議による再生会議を新設して組織改革を行うこと明らかにした。
日大はこれまで田中容疑者の行為を黙認し、許してきた。その田中容疑者と縁を切るというのだが、田中容疑者を切れば解決する問題ではない。トカゲの尻尾切りであってはならない。日大という巨大組織からウミを徹底的に出し切らない限り、第2、第3の田中容疑者はまた現れる。
加藤学長や日大幹部たちは多くの在校生や卒業生がどれだけみじめな思いをしているか、考えたことはあるのだろうか。心から反省し、日大という組織の改善と立て直しに全力を尽くすべきである。
田中容疑者は5期13年の間、理事長の座に就き、長く学内で絶大な権力を振い、日大を食い物にしてきた。9月に東京地検が家宅捜索に入った後の学内会議では「事件は検察の勇み足にすぎない」「日大は被害者だ」と強弁し、日大の幹部たちを黙らせたという。
いったいどこが検察の勇み足なのか。背任事件に絡む日大の資金の一部が、リベート(手数料)として田中容疑者に渡り、脱税の原資になっていたのである。田中容疑者の検察批判はお門違いである。「日大は被害者」はその通りだろう。ただし、加害者は田中容疑者である。