優勝に向かってがむしゃらになる巨人

僕はユニフォームを脱いでから、中畑清さん、同い年の江川卓、原辰徳監督に聞いたことがある。異口同音に語っていた。

「V9の伝統に恥じない野球をする。毎シーズン、常に優勝をめざすんだ」

V9を達成した1973年から、およそ50年の歳月が流れた。巨人は2016年から18年、広島にリーグ3連覇を許した。

優勝の十字架を背負う球界の盟主・巨人にしてみれば、4連覇を許したら昭和50年代の広島4度の優勝(1975年・79年・80年・84年)をも上回る屈辱だ。

2019年、3度目の指揮を任せられた原辰徳監督の強い決意を感じる言葉を、またしても耳にした。

「掛布さん、なりふりかまわず、広島の4連覇を阻止します。もう、巨人の伝統も何もないんです。格好なんかつけていられません」

シーズンに突入すると、いきなり坂本勇人にバントさせたこともあった。言葉どおりペナントを奪回、翌2020年も続けてリーグを制した。そのがむしゃらな姿勢こそが「伝統」だった。

優勝数で巨人と阪神には大きな差がある

優勝にかける巨人選手の思いは、取材するプロ野球記者も折に触れて口にする。

「巨人の選手だけは常に優勝をめざしている。駆け出しの選手であっても、自分が優勝に貢献するという意識が浸透している。取材をしていてひしひしと感じる」

阪神選手にその気概と反骨心はあるのか。

「伝統の阪神-巨人戦」と言うけれど、阪神が優勝したのは1リーグ時代に4度、2リーグ制になってからは1962年、64年、85年、2003年、05年の5度だけなのだ。近年に限っていえば、中日と広島に抜かれている。

前身のチームを含んだセ・リーグ各球団の優勝回数は、巨人47、阪神9、中日9、広島9、ヤクルト8、横浜2だ。

巨人は川上哲治監督がV9、原辰徳監督も3次政権計14シーズンで実に9度優勝している。

中日は星野仙一監督が2度、落合博満監督が「守り勝つ野球」で8年間に4度優勝。広島は古葉竹識監督が昭和50年代に4度、2016年から緒方孝市監督が3連覇した。ヤクルトは野村克也監督の「ID野球」で9年間に4度リーグ制覇を果たしている。