MLBはプロ野球の約6倍の収益
コロナ前の2019年のMLB機構全体の収益は、米国フォーブスによると、107億ドル(1兆1770億円)に達している(MLB Sees Record $10.7 Billion In Revenues For 2019 [forbes.com])。一方、日本のプロ野球全体の収益は、コロナ前でも2000億円前後(マリブジャパン推計)であり、MLBはプロ野球の約6倍の収益を上げていることになる。
日米のプロ野球の収益力の差は、そのまま両国の社会のあり方の差でもある。高齢化と過疎化が進む日本では、改革よりも既得権益を守る空気のほうが優勢であり、NPB(日本プロ野球機構)は低位安定から抜け出せない。一方で、GAFAの経営を取り入れ、絶えず改革し収益を上げ続けるのがMLBだ。
当たり前だが、プロ野球のよさもある。MLBの全てをまねる必要はなく、MLBが全て優れている訳ではない。しかし、MLBから学ぶ点はありそうだ。①デジタル化、②サブスク化、③拡張化により、MLBのように、ワクワクする、儲かる仕組みをつくり、閉塞感や停滞感を打破すれば、プロ野球も今以上に魅力あるものになるはずだ。
プレーを即時にデータ化、見ながら楽しめる
今期、米大リーグ(メジャーリーグ、MLB)で大活躍したロサンゼルス・エンジェルスの大谷翔平選手の最高打球速度は、119マイル(約191.5km)に達しMLB全体で第3位、バレルゾーン率(最も長打になりやすい打球角度と打球速度の範囲)は12.2%で第2位だ。
こうしたランキングデータを楽しむことを可能にしたのが、ボールや選手の動きを追跡してデータ化するトラッキングシステム「Statcast(スタットキャスト)」である。MLB機構が2000年に設立したMLBAM(MLBアドバンスドメディア)によって開発され、2015年に全30球団全ての本拠地球場に導入された。なお、2020年にMLBは計測に使うシステムを、軍事用レーダーを応用した機器「トラックマン」から、ソニー子会社が提供する高性能カメラによる解析機器「ホークアイ」に変更している。また、スタットキャストは、元々はGAFAの一角であるアマゾンのクラウドサービス「AWS」上で運用していたが、2020年からはライバルであるGoogleの同サービス「Google Cloud」に乗り換えている。
スタットキャストでは、選手のプレーを瞬時に測定・解析し、球速、ボール回転数、打球速度や角度から、守備位置や打球までの距離、走った速度やルートの効率性などを数値化することができ、実況中継放送中でも画面上にてボールの軌道や飛距離などをビジュアル化できる。
MLBAMが運営するMLB公式サイトでは、動画コンテンツに加えて、スタットキャストによって、チームや選手のさまざまな成績などのデータも見ることができる。MLBAMが公式サイトを一括管理するため、システムコストも軽減され、統一感がありデザインも秀逸だ。MLBは、最新のデジタルテクノロジーを活用してデータを一括管理し、そのデータを利用することで、視聴者や観客動員数を増やし、収益の拡大にもつなげているのだ。
シーズンチケットで経営を安定化
MLBは、シーズンチケットの販売重視、有料放送会員の拡大、ボールパーク化による継続的な訪問を促す、といった形で、サブスクリプション・サービスの拡大(サブスク化)も重視している。
特に、シーズンチケット販売が重要とされており、人気チームになると観客席全体の7割近くがシーズンチケットになるぐらいだ。単発のチケットの売上は、チームの成績や天候などにも影響され不安定である一方、開幕前に売上が確定するシーズンチケットの販売は、経営の安定化にもつながる。シーズンチケット購入者はMLBにとって最重要顧客なのだ。
また、ホテル、マンション、ショッピングモールやキッズパークを併設など、スタジアムと一体になって「ボールパーク化」することによって、家族連れなど幅広い層に継続的に球場に足を運んでもらう仕組みにも注力している。