日本の大学進学率は50%台半ば

では、日本の国立大学はいったいどういう将来の道を模索すべきなのか。これまで述べてきたように日本の大学は、ヨーロッパのように公立主体で学生の負担を減らすような方向にも、米国のように私立主体で大学の自己資金を大幅に増やすような方向にも進めない。

だとすれば、このままの体制を維持しつつも、公立、私立を問わず大学同士が連携して役割分担を行い、個人と社会の期待に応えるように、教育の質を整えることから始めるしかないと思う。最重要課題は、18歳人口の減少とグローバル化、国際化への対応である。

大学入学者の数が減り続ければ、大学の数や規模を縮小せざるを得ない。しかし、日本の大学進学率はまだ50%台半ばで、世界の30位にも入っていない。韓国(89%)や米国(82%)に比べれば、まだまだ進学率は上がることが期待できる。しかも、大学で学ぶ社会人の数は全大学生の2%に過ぎず(OECD諸国の平均は22%)、留学生の数(全学生の数の3%)も欧米諸国(10〜30%)に比べて圧倒的に少ない。これらの数値を上げれば、大学の入学者はもっと増えるはずである。それには以下のことに留意する必要がある。

大学であらゆる世代の人が学び、未来を模索することが重要

まず、国立大学の共通の使命は、洗練された市民となる高い教養を与えることである。世界の状況は急速に変わっていく。いまある職業の半分以上が10年後には消滅しているという予測もある。歴史や社会、自然、人間についての広い知識と、それを応用して新しい世界観を構築できる能力を磨かなければ、未来の社会で活躍できない。

その必要性に迫られているのは、18歳とその周辺の世代だけではない。すべての世代の人びとがともに学び、対話を通じて未来を模索することが重要なのである。大学はその学びと対話を作る貴重な場である。

そのために、大学は古今東西の学問を俯瞰できる知が得られる場所でなければならず、現代の世界で通用する知識や技術だけではなく、多様な知の拠点としてさまざまな研究者コミュニティに支えられていることが不可欠になる。大学はそこに所属する研究者だけで作られるのではなく、国内はもとより国際的な研究者のネットワークをその存立の基盤にしているのである。

大学の知は公共、社会のため

また、留学生や外国人教員の数を増やし、国際的な知の発信を促進していくならば、教育研究は国際的に開かれたものでなければならない。日本の大学を海外の学生にとって魅力あるものであるためには、英語ばかりでなく、他の言語でも対話の可能な講義やセミナーを開講する必要があるし、何より教育研究の質を高めなければならない。

山極寿一『京大というジャングルでゴリラ学者が考えたこと』(朝日新書)
山極寿一『京大というジャングルでゴリラ学者が考えたこと』(朝日新書)

海外のどの大学でも学部生を長期間海外に出すことにはためらいがある。自国の学生の基礎・教養課程は、自国の大学で責任を持って実施したいという意識が強いからだ。であれば、異文化理解や国際感覚の習得のため、短期の留学を大規模に展開したほうがいい。学部に受け入れる留学生の数を増やすためには「日本文化の理解」を中核にした短期の学習コースを提供する。

これはそれぞれの大学が独自に展開するより、協力して海外の大学と連携するほうがコストも効率もずっと向上するだろう。コロナ禍のオンライン授業の普及で、もうそれはすぐにでも実施可能になっている。

21世紀の日本の国際戦略は科学技術外交である。それに日本の高度な教育を付け加えれば、日本が世界に果たす役割は格段に上がるだろう。大学の知は私的な利益追求のためにあるのではなく、常に公共のため、社会のためにあるという矜持を忘れてはならないと思う。

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