シカゴで迎えた「死ぬか生きるかの1日」

ウッドたちは売り込んでは断られつづけた。努力が一向に実を結ばないまま、失望とかさんだ旅費の請求書にがんじがらめになった気分で、シカゴの食肉加工会社、スウィフト・アンド・カンパニーに営業をかけた。

シューマッハは、スウィフト社が毎度、万国博覧会に出展して、プレミアム・フランクフルトといった商品の製造工程を展示したり、小売店でおなじみの光景をマリオネット・ショーで披露したりしていることを知っていた。ニューヨーク万国博覧会の会場に即席の製造工場を建てられるというなら、アナハイムに出展する資金を出し渋ったりしないはずだ、と考えたのだ。

シューマッハは語っている。「計画そのものが危機に瀕しているような経済状態だった。まさに、生きるか死ぬかの1日だった……。テナント契約を結んだ会社はひとつもなかった。わたしたちはスウィフト社の敷地の中を歩き回り、どんな形にせよ同意を得て、せめて1社でも大手企業のテナントを獲得しようとした」

ウッドたちは、ついに社長との面会にこぎつける。そこでウッドは、セールストークを繰り広げた。ディズニーランドの完成予想図を広げ、たくさんの人が楽しい時間を過ごしているこの場所で御社の製品を試食できるとなれば、みな喜ぶでしょう、と熱弁をふるった。テレビや雑誌のコマーシャルよりずっと効果があります。ディズニーランドでの楽しい思い出とともに、記憶に残るはずです。

2人を放り出した社長が笑顔になったワケ

最初は、ウッドもシューマッハも手ごたえを感じていた。社長はディズニーランド構想が気に入ったように見えたし、万博の展示は投資に見合う価値があったと認めていた。だがここにきて、ウッドのセールスマンとしての勘が鈍ってしまう。強く押しすぎたことに気づいたのは、社長に話を遮られたときだった。「十分話は聞いた。そろそろお引き取り願おう」

ふたりはロビーに戻ったが、離れる気になれなかった。

20分ほど中をぶらつき、シューマッハが新しい戦略について話を始めた。それを上の空で聞いていたウッドが、こう言った。「もう一回、話をしてみようと思います」

「どうやって? 放り出されたんだぞ」
「まあ見ていてください」

エレベーターへと向かうウッドの後ろを、シューマッハは気乗りしないままついていった。役員フロアに着くと、ウッドはうまいこと秘書に話を通し、まともにノックもしないうちにドアを開けた。中に入ると、冷たい反応が返ってきた。「また戻ってきたのかね」

開いているドア
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ウッドは部屋の奥を指さし、「書類かばんを忘れたんです」と言った。たしかにかばんはそこにあった。そこでウッドは運をつかむ。わざと忘れ物をするという厚かましさが、社長を楽しませ、笑顔にさせたのだった。