JALフィロソフィは、JALの現場にどう浸透し、いかに活用されているのだろうか。JALフィロソフィの中で、JAL自身がつくり出したものの代表例が、「最高のバトンタッチ」だ。これがいま、定時性世界一のJALを、突き動かしている。JALは経営破綻した09年、再生1年目の10年と2年続けて、飛行機の定時到着率で、世界ナンバーワンを獲得した。11年もナンバーワンを獲得することが、全社的な目標になっている。
定時到着率を上げるために最も重要なことは、いかに定時に離陸できるかだ。航空会社は整備、貨物、燃料、地上業務、客室業務、運航業務(パイロット)と、多くの業務に分業化され、専門化している。飛行機を時刻表通りに飛ばすには、それぞれの部署が、遅滞なく業務をこなし、次の部署へバトンタッチしていかなければならない。
例えば、乗客が多いときに、地上職員のゲートへの誘導が通常と同じなら、乗客がゲートに集まるのが遅れ、飛行機に搭乗するのが遅れ、飛行機の中で手荷物を収納するのが遅れ、結局、ドアを閉めるのが遅れる。小さな遅れが積み重なって、大きな遅れにつながるのだ。
羽田空港の羽田事業部国内パッセンジャーサービス第3課に所属する小島えりは、09年の入社。チェックインや荷物を預かる受託業務などを担当する地上スタッフだ。定時性を維持するために、朝の混雑する時間帯では、込み具合を見て、保安や手荷物検査のスタッフと相談し、カウンターのオープン時間を、朝の5時半から15分早めるといった工夫をする。
若い小島はJALフィロソフィについて、どう感じているのだろうか。「フィロソフィが一つのツールになって、全社員の問題意識を共有させていると感じます。『最高のバトンタッチをする』など、現場で考えるべきテーマがあらかじめ設定されているので、いつも改善を考えることができます」。
ちなみに、小島が気に入っているフレーズは、「一人ひとりがJAL」。JAL社員100人中、99人までが顧客のことを思って行動しても、最後の一人の対応が悪ければ、すべてが台無しになる。
「だから、90%頑張るというのではなくて、100%という意識で頑張らなくてはと思います。一番好きな言葉であると同時に、一番大事なことかな」。